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2007年10月30日(火曜日)付

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守屋氏喚問―接待漬けの見返りは

 200回を超えるゴルフ接待。費用丸抱えのゴルフ旅行。賭けマージャン。ゴルフクラブやバッグのプレゼント。韓国クラブなどでの飲食接待……。

 防衛省の守屋武昌・前事務次官に対する証人喚問が、衆院テロ対策特別委員会で行われた。その証言からは、軍需専門商社「山田洋行」元専務の接待攻勢のすさまじさが改めて鮮明になった。

 防衛省の事務方のトップが、長年にわたってこんな癒着関係を続けていたとはあきれるほかない。守屋氏その人から自衛官としての倫理を説かれてきた27万人の職員たちは、どんな思いで証言を聞いたことだろう。

 守屋氏の退職金の返納を含め、厳しい措置を取るべきだ。癒着を見逃した歴代の防衛相らも責任を免れまい。

 問題は接待だけではない。その見返りに、元専務側に発注や契約などで便宜を図ったのかどうかである。守屋氏は「一切ない」「記憶にない」と言い続けた。

 では、巨額の接待費用を投じたのは何のためだったのか。山田洋行は昨年度までの5年間、防衛庁・省から総額174億円の契約を受注し、それも9割以上が競争入札によらない随意契約だった。

 この実績を見れば、証言をうのみにすることはとてもできない。

 元専務とのゴルフや宴席に、部下や防衛庁長官を経験した国会議員が同席したこともあったと認めた。守屋氏と山田洋行との親密さを見せつけるこうした会合が、省内に何の影響も及ぼさなかったとは思いにくい。

 守屋氏は国会議員の名前を明かすのを拒んだが、身に覚えのある議員は自ら名乗り出て説明すべきではないか。

 一方、インド洋での海上自衛隊補給艦から米補給艦への給油量の誤りを隠蔽(いんぺい)した問題はもう一つの焦点だったが、守屋氏は「当時の状況を覚えていない」などと自らの関与を認めなかった。

 隠蔽がなぜ起きたのか。なぜ4年間も放置されたのか。今回の喚問では、肝心のそこがまったく解明されなかった。

 防衛省がきのう発表した調査報告は、正しい給油量が記された資料が海自から内局にも届いていたことを認めた。ならばどうして、当時防衛局長だった守屋氏ら内局幹部は誤りを正せなかったのか。

 イラク作戦への転用があったのかどうかを含め、給油に絡む実態は闇が晴れないままだ。給油を継続していいのかどうか、多くの国民が判断に迷う現状は変わらない。

 山田洋行をめぐっては、元専務が約1億円を不正に引き出した疑惑が浮上し、東京地検特捜部が調べている。政官との癒着がなかったか解明を期待したいが、国会にも引き続き疑惑をただす大きな責任がある。

 今回の喚問で一連の疑惑に幕を引くわけにはいかない。元専務や、給油量の誤りを隠蔽した当時の海幕防衛課長らを国会に呼び、真相究明に取り組むべきだ。

高速道料金―距離別導入はまだ早い

 「民営化したのに値上げ?」と驚いた利用者も多かったのではないか。

 首都高速道路と阪神高速道路の両社が来年度中の導入をめざす「距離別料金制度」の案を発表した。現在は700円の均一料金を、利用距離に応じて400〜1200円にするという内容だ。

 両社は、利用距離に応じた負担となるので、より公平になるとしている。「現行料金より高くなる車、安くなる車がほぼ同数になると見込んでおり、値上げではない」とも強調する。

 とはいっても、半数にとっては値上げであり、上限料金は7割超も上がる。これはあまりに急激ではないか。遠方へ行くマイカーや、利用頻度が多い運送業界にとっては大きな負担増となる。

 そもそも民営化は、民間ならではの経営努力で「700円」の水準が下がることが期待されていたはずだ。

 改定案にはもう一つ重大な問題がある。自動料金収受システム(ETC)を備えていない現金払いの利用者は、距離に関係なく上限の1200円を払わなければならなくなる点だ。

 距離別料金にするには、出口で精算する必要がある。ETC車なら出口で電子的に精算できるが、非ETC車だとすべての出口に料金所を設けない限り、距離別にはできない。

 だから入り口で上限料金を取るというわけだが、あまりに不公平だ。「高額料金がいやならETCをつけろ」と言わんばかりではないか。

 ETC装置の取り付けには利用者側に1万〜2万円の費用がかかる。さらに、クレジットカードがないと使えない。ETCの普及率は首都圏の1都3県でまだ4割弱、全国では2割しかない。この段階で距離別制にするのは、いかにも無理がある。

 首都高会社は対策として、先払い式の電子マネーカードを使った簡易精算装置を3000〜4000円で貸し出すと発表した。利用時にいったん1200円が引き落とされたあと、コンビニなどに置く端末で差額を精算する。

 でも、たまにしか高速道路を使わない利用者にとっては、まだまだ負担が大きすぎないか。

 ETCの普及率を上げたいなら、やはり使えば得だと思わせるのが筋だろう。距離別料金を導入する前に、たとえばETC車へは、短い距離だけの「ちょい乗り」用や深夜などの割引を広げたらどうか。誘導策で普及が進めば、距離別制度の環境も整っていく。

 また距離別の料金差を縮めて、全体として値下げにはできないものか。

 「距離別料金の08年度導入」は、政府・与党が03年に決めた各道路公団の民営化の基本方針に盛り込まれた。

 距離別料金の方が、利用者にとっては負担が合理的になる面はある。ただ、導入にあたっては、民営化の果実を利用者が実感できるように工夫すべきだ。

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