秋が深まるこの時期が来ると今もある事件の取材を思い出します。一九九四年十一月、ある大規模病院で、内科医が患者の承諾を得ずに新薬の臨床試験を行い、そのデータを改ざん。見返りに製薬会社から現金を受け取ったというものでした。
事件は、その本質である医師と患者の信頼関係について考えるきっかけを与えてくれました。
当時に比べ、医療現場ではインフォームドコンセント(十分な説明と同意)が随分と徹底されました。でも中には、真摯(し)に患者に向き合おうとしているのか、疑問を感じる医師に出会うこともあります。
たとえば細かな質問をされるのを嫌う医師は少なくないように思います。自分を信用していれば間違いないという自信があるのでしょうが、もともと立場が弱い患者からみれば、話しかけづらい医師は困ったものです。
セカンドオピニオンを嫌ったり、別の医師の意見を露骨に否定する医師もいます。
医師の無神経な言葉で傷付くこともあります。「治る見込みのない患者を大学病院が受け入れてくれますかな?」「大学病院は治らない患者ばかり押しつけてくる」。これは私が身内の問題で複数の医師から直接聞かされた言葉です。
もちろん、患者のために粉骨砕身尽くしてくれる医師がほとんどです。それでも、あえて言いたいのです。患者の不安を和らげ、信頼を築くにはどう接するべきか、深く突き詰めてほしいということを。
「医は仁術」という言葉があるのですから。
(備前支局・二羽俊次)