少子高齢化が進む中で、増加が予想される年金や医療など社会保障費の財源をどうするか。政府の経済財政諮問会議や自民党税制調査会で、安定財源確保に向けた増税論議が始まった。
小泉、安倍政権下では増税論議は事実上、封印されてきた。規制緩和などで経済を活性化して税収増を図り、歳出削減と合わせて財政健全化を進めるという戦略が推進された。安倍政権では「上げ潮路線」と呼ばれた。
しかし、経済成長に依存する手法は長期的に見て安定感に欠け、説得力も乏しかった。さらに規制緩和などが富裕層と貧困層、都市と地方の格差を拡大したとされる。七月の参院選で自民党が惨敗した後、政府・与党内で上げ潮路線を見直し、本格増税の道を切り開こうとする動きが強まった。
口火を切ったのは内閣府だ。国の借金水準をこれ以上高めず、社会保障給付を維持するには二〇二五年度に最大三十一兆円の増税が必要との試算を経済財政諮問会議に示した。全額を消費税で賄えば、税率は17%程度まで上昇するとした。
すさまじい増税率に驚いた人は多いだろう。これに対し福田康夫首相は「高齢化は確実に進行する。問題を先送りすれば選択肢はさらに厳しくなる」と増税論議の必要性を訴えた。本格増税に向けた地ならしと受け止めてよいのではないか。
経済財政諮問会議では民間議員から年金に関する試算も出された。基礎年金部分をすべて税金で充当したら約一六・三兆円、消費税に換算すると約6%の引き上げが必要と指摘した。
自民党税制調査会は、消費税を中心にした〇八年度税制改正の論議を例年より約一カ月早く始めた。福田首相の意向を反映してか、増税派が勢いを増しているという。
確かにいつまでも経済成長頼みではなく、給付と負担の在り方について国民的な議論を喚起し、合意形成を図る時期に来ている。そういう中で具体的な数字を盛り込んだ判断材料が示されるのは評価できる。
ただ増税ありきのような姿勢で議論を進めるのは筋違いだ。行財政改革などで歳出削減が徹底されたとは言い難い。地方分権の推進で歳出構造を抜本的に変える必要もある。増税論議は多角的な視点を忘れてはならない。
一方で民主党は税の無駄遣いをなくすことで基礎年金を全額税で賄えるとする。次期総選挙を意識したものだろうが、歳出カットの具体策を示さないと理解は得られまい。
堺市の南海高野線の線路上で二十七日に起きた大阪航空(大阪府八尾市)の小型ヘリコプター墜落事故は、操縦士と体験飛行中だった客の計二人が死亡した。事故の数分前には上下線の電車が現場を通過しており、一歩間違えれば大惨事になるところだった。
南海鉄道によると、高野線は市街地と高野山を結び、一日約三十五万人が利用している。事故の時間帯は一時間に上下合わせて三十一本が通過する。二分に一度は通る計算だ。接近していた上下線の電車は約三百メートル―一キロ離れた最寄りの駅で停車した。
現場はレール上で機体が大破し、部品が散乱する。周辺には民家や工場が立ち並ぶ。もし走行中の電車が事故に巻き込まれていたら、と想像しただけでぞっとする。
ヘリは米社製のロビンソン式R22型(二人乗り)で、八尾空港を拠点に操縦訓練を希望する人を対象に一人十―十五分間の体験飛行を繰り返していた。本格的な操縦訓練を受けるかどうかを見極める下見的なもので、一般的に体験者に恐怖感を与えないよう無難な飛行をするという。
事故はこの日四回目のフライトで起きた。操縦士から「これから八尾に帰る」と連絡があった後、消息を絶った。目撃情報では、空中で停止状態だったヘリが突然水平に回転し、きりもみ状に垂直に落下したようだ。
R22型は構造が簡単で飛行距離などに優れ、四千機近くも製造された世界的なベストセラー機種である。操縦訓練や航空写真の撮影などに利用されることが多い。操縦ミスや安全管理面の問題などが考えられる。国土交通省航空・鉄道事故調査委員会や警察は、徹底的に原因を解明してもらいたい。
(2007年10月29日掲載)