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団塊の世代

【団塊はいま】

市民記者「モノ」申す

2007年10月27日

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自宅でパソコンに向かう宮本聰さん=横浜市港北区で

 韓国のオーマイニュースの成功に刺激され、日本でも、市民参加型インターネット新聞が育ってきた。若いネット世代に交じって活躍するシニアも増えている。団塊には市民記者がよく似合う、のだろうか。(木村彰一)

 横浜市に住む宮本聰(そう)さん(61)はこの1年余り、職場のある品川へ通う電車で記事の想を練るのが日課になった。昨年8月、日本版オーマイニュース(OMN)創刊とともに市民記者に登録。週末ごとに書いた記事は60本を超えた。

 外資系製薬会社で人事の部長を務めた後、早期退職。いまは人材コンサルタントとして働く。

 物を書くのが好きではあった。でも現役時代は仕事に忙殺され「帰ってくるとヘトヘト」。定時勤務となって余裕が生まれたとき、「自分の意見をぶつける場所を持ちたい」と思った。

 題材は医療や雇用など経験を生かしたものが多い。最近は、募集・採用時の年齢制限を禁じた改正雇用対策法の施行に合わせ、中高年の雇用差別への怒りをつづった。

 「一律に門戸を閉ざしてしまうにはあまりに逸材採用のチャンスを失っていると言わざるを得ません。『中高年はダメ』という既成概念が雇用者側にありませんか」(今こそ雇用者側の意識改革を!=9月24日付OMN)

 「不満を持ってない。シラケている」と若い世代に厳しい目を向ける。自分たちを「『個の時代』『自己実現』などを標榜(ひょうぼう)した世代。モノ言う世代」と自負し、「団塊世代を市民記者に囲い込もう」と作戦を練る。

 総務省の「通信利用動向調査」(06年)によると、20〜40代のパソコン利用率は70%を超しているのに対し、50代は54%と低い。だが、「インターネット白書」(インプレスR&D発行)によると、50代以上のインターネット利用者は徐々に増えてきている。

 3年前から「市民記者養成講座」を開いている川崎市の「かわさき市民活動センター」ではこの秋、18人が受講。そのうち50代以上が10人を占める。担当の濱岡信子さんは「仕事が忙しい若い世代に比べ、シニアの方の定着率は高い」という。パソコンも、記事を書くうちに使いこなすようになる人が多いそうだ。

 約4千人のOMN登録記者のうち、50代以上の比率は2割程度と高くはないが、熱心な市民記者がいる。

 「第二の人生は市民記者で」と仲間たちと語らっているという矢山禎昭さん(66)は「職業や人生経験を踏まえた記事には、広い意味での専門性があり、味わいがあるはず」とシニアの長所を語る。加えて、自由な時間や経済力もある。

 OMNは記事が採用されると、300〜2千円の掲載料が出るが、取材費にはとても足りない。

 「まあ、道楽みたいなもんで、家族には、そうひどくカネ使うわけでもないからいいだろう、と言われてます」

 宮本さんは9月から編集部に選ばれて月1万円の謝礼で編集委員に就いた。改めてOMNの現状に目を向けると、「ウッと思わせる、考えさせる記事が少ない」と思う。「ブログを集めてきただけじゃないの」という声が出るのもわかる。

 それでも、「おだてられ、ネットで身辺の情報を送稿している作文好きの大衆」(ソフトバンク新書「サイバージャーナリズム論」)と揶揄(やゆ)されると、「闘志をかき立てられる思いがする」。

 「もっと影響力あるメディアになってほしい」。自費で作ったという宮本さんの名刺には、「OhmyNews」のロゴが、赤く、浮き立つように印字されていた。

 定年を迎えつつある「団塊」市民記者について、OMNの元木昌彦編集長は「これから年金受給者、高齢福祉の対象者になっていく。常に市民の目線で、その世代でなければ分からない問題点をえぐり出し、『老後を安心して暮らせる日本』を実現する一大勢力になってほしい」と期待を寄せている。

■市民記者

 広くは一般紙や自治体の広報などに記事を書く市民をいうが、最近は参加型ジャーナリズム、特にインターネット新聞の記者を指すことが多い。日本では「市民の、市民による、市民のためのメディア」を掲げて03年2月に創刊したJanJanが草分け。ほかにPJニュース、ツカサネット新聞、オーマイニュースが代表的。掲載謝礼はないか、あってもごく少額。

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