クレスコ(4674)はコンピュータソフトウェアの開発事業を行なっている。
金融・流通向けのビジネス系アプリケーションソフトの開発に定評があるが、ミドルウェアソフトから、サーバやネットワークの構築、システム間の接続、データベースの構築まで、さまざまな基盤系システムの開発を得意としている。
「ミドルウェア」とは、コンピュータの基本的な機能を提供し、システム全体を管理する「オペレーションシステム(OS)」と、ワープロ・表計算・ゲームなど、目的ごとに設計した「アプリケーションソフト」の中間的なソフトだ。
また、情報通信端末・自動車用オーディオ・情報家電などに内蔵する組み込み型ソフトでも実績がある。
熊澤修一社長が、
「今や、コンピュータは社会インフラのひとつとなっている」
と指摘するように、現在、コンピュータは、産業、金融、国民生活のあらゆる場面で使われている。
そのなかで、ますます重要度を増している、同社の事業とは――。
●ミドルウェアと組込型ソフトに強み
クレスコは1988年、前身の企業『テクトロン』と『メディアリサーチ』が合併し、ソフト開発会社として創立した。
社名は、ラテン語で「成長する」という意味。「着実に進歩し続ける」「会社を大きくしていこう」という意気を込めた。
また、「cresc」と「o」の間に「end」を挟むと、音楽用語の「crescendo」(クレッシェンド=音をだんだん大きく)、つまり、「成長し続ける」「成長を終わらせない」という語呂合わせにもなる。
2000年9月、東証2部に上場。2001年9月には早くも1部へ指定替えとなった。
先般発表した修正後業績予想は、2008年3月通期連結で、売上高139億円(前年実績比10.0%増)、営業利益6億6000万円(同13.6%増)、経常利益9億1000万円(同9.8%減)、純利益4億円(同601.8%増)。
経常利益の減益は、出資先企業の配当金が無配になったことなどが理由だが、事業は堅調に成長路線を歩んでいる。
とはいえ、ここまで順風満帆だけで来たわけではなかった。
●ITバブル後、徹底的に組織改革
2000〜2001年のITバブルの時期には、需要を反映して、さまざまなプロジェクトを立ち上げたが、2001年には大きな不採算プロジェクトが発生し、2002年3月期は損失計上となった。
創業以来、初の赤字である。
が、同社の対応は速かった。
コンサルティング会社から専門家を招き、組織・マネジメント面から、現状を検証し、課題を徹底的に分析したうえで、案件の精査、新たな品質管理基準の策定、役割・権限の明確化など、社内改革を行なった。
プロジェクトのリスクについても社内基準を作成し、リスク管理を強化した。
また、ITバブル後は、業界全体の受注単価が下落した時期だ。
単価が下落しても利益が出るよう、体質改善を行なった。
それまで属人的だった技術・知識をデータベース化し、共有した。研修体制も拡充し、生産性のさらなる向上を図った。
熊澤社長は、
「人間、困った時にこそ知恵が出るものだ」
と実感したそうだ。
改革を推進しやすい、自由闊達な社風も奏功の理由だった。
●新事業としてソリューション事業を育成
現在の事業は、「ビジネス系ソフトウェア開発」と「組み込み型ソフトウェア開発」の2セグメント。
前期実績の売上高で見ると、前者が77.2%、後者が22.8%の構成比となっている。
ビジネス系ソフトウェア開発事業は、市場自体が大きく、需要も多い金融関連、公共サービス、通流など向けのアプリケーションソフト開発が中心だが、冒頭触れた、同社の強みであるミドルウェアソフトの開発技術はここでも重要な役割を果たしている。
組み込み型ソフトウェア開発事業は、情報端末、自動車用オーディオ、情報家電などに向けた開発を主としている。
たとえば、カーラジオに組み込むソフトには、高速で移動しながらでも確実に電波をキャッチし、同期(連関)させる高度な技術が求められる。
また、同事業では、パソコン用の通信カードなども手がけている。
身近な生活用品に、同社の技術は使われているのだ。
さらに、新事業として育成しているのが、「ソリューションビジネス」だ。
客先企業の「困っている」課題や、「こうしたい」というニーズに対応して、さまざまなシステムソリューションを提供する。
現在、着手しているのが、セキュリティ分野だ。
具体的には、ネットワークからコンピュータに接続する際の個人認証や、情報漏洩対策である。
同社オリジナル製品『セキュアダイブ』を核に、事業を軌道に乗せていく構えだ。
熊澤社長は言う。
「ソリューションの技術力・提案力があれば、オフショア(新興国などへのシステム開発委託)時代にも、アドバンテージを持って仕事ができる。同業他社との差別化にもつながる」
顧客にとっての安心感、経営効率化、ビジネスチャンス拡大、情報資源活用を提供する。結果、顧客との信頼関係が結ばれ、さらに顧客の立場でよりよいソリューション提案ができる…という好循環を図る。
これが同社の目指す「メインITパートナー」である。
背景には、繰越利益やキャッシュフローなど財務が良好なため、必要な時には思い切った開発投資ができるという強みもある。
●コンピュータは社会インフラに
熊澤社長は1956年生まれ、神奈川県出身。
1979年に東海大学工学部を卒業。朝日ビジネスコンサルタントに入社した。
国内大手メーカーへ出向し、おもに大型汎用機のOSと通信管理システムの開発に携わった。
当時はメーカーごとにコンピュータの仕様や設計が異なった時代。相互接続のために互換性を持たせたり、異機種間結合を行なう通信規約にしたがってネットワークを構築するために、各メーカーやシステム事業者と折衝する経験も積んだ。
その後、「自分の技術が外の世界で通用するか、試したかった」(熊澤社長)ため、1990年、クレスコに入社した。
2004年、取締役ソリューション本部長、05年常務などを歴任。06年、社長に就任した。
日本のコンピュータ普及の黎明期から業界を見てきた目には、現在のコンピュータは、道路や電話などと同じ、社会インフラになったと映る。
企業におけるコンピュータの位置づけも、当初は計算機の延長線上にあり、業務効率化のツールにすぎなかったものが、現在は、経営戦略に直結している。
コンピュータがストップするということは、社会インフラがストップすることと同義になっている。
この業界は、「人」が財産であり、資産だ。一般的には、3年で一人前、7〜10年でプロジェクトリーダーになるという。
技術だけでなく、顧客のニーズを汲み取り、システムについて説明できるコミュニケーションスキルが求められる。知識と経験、ノウハウの蓄積とともに、日進月歩の新しい技術を吸収する柔軟性も必要だ。
コンピュータの重要性増大、多様なニーズに合致したソフト開発、ソリューションの提供、人の育成。そして、経営判断のカジ取り。
かなり難しい仕事ばかりだが、熊澤社長は、
「責任が重いほうが、仕事はおもしろい」
と、技術者として鍛えられてきた経営者の自信をのぞかせる。
加えて、社会への貢献、株主への貢献など、やるべきことは多い。
日本のインフラをテクノロジーで支えているという自負が、熊澤社長の仕事のやりがい、原動力になっているという。