ドキュメンタリー映画作家、マイケル・ムーア監督の話題作「シッコ」を岡山市内で見た。今回の標的は米国の医療制度だ。
米国には国民皆保険制度がなく、無保険者が約四千七百万人いるという。民間の保険会社に加入していても、利益優先で保険会社がさまざまな理由をつけて医療費の支払いを渋るケースが多く、国民は生命の危機にさらされている。
冒頭登場するのは、事故で指を二本切断した男性。治療費として中指は六万ドル、薬指は一万二千ドルを要求され、薬指だけを手術する。保険がなく、支払い能力がないからと、路上に放置された女性もいる。
医療から見放された人々の悲劇、米国社会の病巣を、ムーア監督は義憤にかられえぐり出す。最後に担ぎ出されるのは、米中枢同時テロ「9・11」で呼吸器系障害を負った救命員たち。「英雄」であるはずの彼らも満足な治療が受けられてない。
ムーア監督は彼らを引き連れキューバへ渡る。無償治療を施され、涙するシーンは皮肉たっぷりだ。いささか過剰な演出も目につくが、根底にあるのは「人の命をないがしろにするな」という主張だ。
日本でも、薬害C型肝炎による感染者リストが五年前から厚生労働省の地下倉庫に放置されていた問題が発覚した。薬害訴訟の原告が増えるのを恐れた隠ぺいとみられてもやむを得まい。人命軽視は決して許されない。