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2007年10月28日

◎参勤交代ツアー 新幹線沿線交流につなげたい

 金沢・富山県西部広域観光推進協議会が首都圏在住者を対象に、十二月に「加賀藩・参 勤交代ツアー」を実施することになった。今回は江戸に至る加賀藩大名行列の最後の宿であった東京都板橋と金沢、高岡、砺波市などを巡るコースとなるが、参勤交代の道中は北陸新幹線のルートにほぼ重なっており、こうしたツアーを沿線交流に結びつける発想があっていいだろう。

 同協議会は今年八月に発足し、「加賀藩」をテーマに金沢と富山県西部の観光資源を首 都圏などに発信する方策を検討している。旧加賀藩領だった地域を一つの観光エリアとみなし、それぞれの歴史遺産を結びつけて集客力を高める狙いだが、ツアーで打ち出す「参勤交代」というキーワードは、他地域の加賀藩の歴史にも光を当て、北陸と首都圏を線でつなぐという点で意味がある。

 なかでも板橋宿は加賀藩の下屋敷が置かれた場所で、大名行列はそこで装束をあらため 江戸へ向かった。板橋区内には「加賀」の地名、「金沢」の名を冠した橋や小学校があり、下屋敷跡の一部は加賀公園となっている。ツアーでは板橋区内で「加賀藩学講座」を十一月に開催し、その受講者を中心に希望者を募って実施される。

 今回は参勤交代ルートの両端をつなぐ旅だが、その間の新潟、長野、群馬にも本陣跡や 関所跡、街道松、一里塚などが残り、旧北国街道の一部が「加賀街道」と呼ばれているところもある。加賀藩の大名行列は全国一の規模で、街道整備に与えた影響も他藩以上だったと言われる。前田家や大名行列をめぐる逸話は各地に残っており、参勤交代を手掛かりに歴史をたどっていけば、北陸への関心を促す素材はたくさんあるはずである。

 金沢市は北陸新幹線で結ばれる長野市と「集客プロモーションパートナー都市協定」を 結んだほか、高崎市とも観光協定締結の可能性を探っているが、共通する歴史の下地があれば、より濃密な交流が可能になる。新幹線開業により約二時間半で結ばれる金沢―東京間は、参勤交代では十二泊十三日程度の道中だった。参勤交代ツアーは、北陸新幹線ルートを藩政期の歴史と重ねながら楽しめる味わい深い旅となるだろう。

◎同意人事で対立 「妥協の政治」も必要に

 国会の同意が必要な政府の人事案件で与野党が対立し、議院運営委員会への提示が先送 りされた。民主党は「談合的な話し合いには応じない」として、与党との事前協議を拒否し、参院で反対する構えを見せている。政府・与党による人選を厳しくチェックすることは野党の務めであるが、国会同意人事を「政争の具」とするようなことは避け、与野党の妥協も必要なことを認識してほしい。

 衆参両院の同意を得て内閣が任命する人事は、日銀総裁や国家公安委員会委員、各種審 議会委員などがある。政府は今国会で、任期切れが迫る国家公務員倫理審査会委員やNHK経営委員会委員、欠員の地方分権改革推進委員会委員など十四機関二十八人の人事案件について国会の同意を得る必要に迫られている。

 ただ、同意人事は法案と違って衆院での再議決が認められないため、参院で否決されれ ば廃案になってしまう。参院第一党の民主党も実質的に人事権を握っているわけだが、法案なら国会審議で与野党が歩み寄り、修正することはあり得ても、人事案件は国会論戦にはなじまない。とすれば、与野党が一定のルールや選考基準に基づいて事前に調整し、妥協することも必要になってくる。

 与党は党内のプロジェクトチームで人事案件を審査し、国会に諮るこれまでの方式に替 えて、与野党の事前協議機関の設置を提案してきた。しかし、民主党はこれを拒否し、対決姿勢を強めている。

 参院で不同意になった人事は、欠員か前委員が残留扱いされることになるが、例えば、 来年の通常国会で人事の焦点とされる日銀総裁が与野党の対立で決まらないとなれば、金融政策決定に支障をきたし、市場を混乱させることは必至である。国際的な信用まで低下させかねないこうした事態を回避するには、与野党がどこかで折り合いをつける必要がある。政治はある意味では与野党の妥協であり、国政を停滞させないために人事で妥協することは、決して敗北でも恥でもないと考えたい。

 また、各種審議会の委員らは政府に都合のいい人物が選ばれがちといわれるが、「ねじ れ国会」の下では政府の人選能力や見識もより厳しく問われることになる。


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