2007年10月27日
日韓外交問題に発展?−金大中事件報告書
一九七三年に東京で起きた金大中氏拉致事件に関し、韓国国家情報院傘下の「過去事件真実究明委員会」が二十四日、報告書を通じて国家機関の事件への関与を初めて認め、日韓間の外交問題化が懸念されている。「主権侵害は遺憾」と謝罪を求める日本政府に対し、韓国政府は対応を迫られている。
(ソウル・上田勇実)
KCIA関与…政治決着の是非論再燃
主権侵害めぐり攻防も
金大中前大統領
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事件は七三年八月八日、韓国野党のリーダーで朴正熙大統領(当時)の政敵だった金大中氏が、都内のグランド・パレスホテルから何者かによって拉致され、五日後にソウル市内の自宅前で釈放されたもの。ホテルの現場からKCIA所属の金東雲・駐日韓国大使館一等書記官の指紋が検出されたため、KCIA関与説が広がった。
しかしその後、韓国政府は事件への国家機関の関与を全面否定しながら金書記官を不起訴処分とし、金鍾泌首相の訪日(七三年)と宮沢喜一首相の訪韓(七五年)で両国は政治的に事件に対する決着を付け、真相がうやむやにされたまま、幾つかの疑惑が残された。
疑惑の核心部分は、(1)拉致の実行犯とその背後は誰か(2)朴大統領が拉致を直接指示したのか(3)拉致の目的は単純な韓国への拉致か、それとも暗殺か(4)事件後に組織的な隠蔽(いんぺい)工作があったか――の四点。このうち外交問題に発展する火種は、今回の報告書でKCIA関与を認めた(1)である。
同委員会は今回、元KCIA職員や金大中氏が事件当時、大阪港から無理やり乗せられたとする船(ヨングム号)の元船員らの証言、KCIAと駐日韓国大使館の間で交わされた事件に関する電文などをもとに報告書を作成。その中で「李厚洛KCIA部長の指示によりKCIAの主導で駐日韓国大使館員とヨングム号が動員されて実行された」と断定し、KCIAによる組織ぐるみの犯行であったことを初めて公式に認めた。
問題は、韓国公権力が日本国内で拉致行為を行ったことが明らかになったこと、また日韓間の政治決着が韓国公権力の関与がなかったことを前提にしていたことである。
前者に関し日本政府は二十四日、町村信孝官房長官が「日本国内でこうした主権を侵害するような事件が起きたことは大変問題」と述べ、韓国政府に対し謝罪と再発防止を求めた。また町村官房長官は、報告書が「公権力の介入を知りながらも外交的な解決に合意し、事件発生初期に真相究明できなかった」として遺憾の意を表明したことと関連、「責任が日本側にあるという主張を万が一、韓国政府がした場合、受け入れられない」と述べ、韓国側を牽制(けんせい)した。
一方、韓国政府は今のところ、報告書が韓国政府に事件の被害者である金大中前大統領に対する公式謝罪と名誉回復措置を促していることに対し、青瓦台(大統領府)の千皓宣報道官が「過去にこうしたことが起きたのは不幸であり、残念だ」としながらも、「(調査)結果は各機関の判断で下すものであるため、一つ一つに対し論評するのは望ましくない」と述べるにとどまった。日本政府が主張する「主権侵害」に対する見解も表明していない。
ただ後者に関しては、日韓政治決着の前提が崩れることで、当時の政治決着の是非に関する議論が再燃する可能性が出てきた。また「主権侵害」も、韓国政府は何らかの対応を迫られており、それ次第では両国間の攻防も予想される。
(本紙掲載:10月26日)