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社説:視点 対テロ新法 「常識」論で通すなら法律はいらない=論説委員・森嶋幹夫

 「テロとの戦い」をめぐり民主党の小沢一郎代表が挑んでいる憲法論議は、政府や国民への問題提起として意味がある。参院で同党が多数を握る「ねじれ国会」が現出していなければ同氏の主張がこれほど注目されることはなく、給油活動の延長は今回もすんなり決まっていたに違いない。

 政府は、海上自衛隊の給油活動が憲法違反でないとする理由として(1)武力行使に当たらない(2)非戦闘地域である--の2点を指摘している。一方小沢氏は、米国の自衛権発動の作戦を支援することは集団的自衛権の行使をほぼ全面的に認めなければできないはずである、として違憲論を展開している。

 政府と小沢氏の対立の背景には、政策論の次元を超えた政局にらみの思惑があるから妥協の余地はない。決着のつけ方は、新法の強行成立か廃案かの二者択一しかないだろう。

 小沢理論でいけば、政府は6年間、憲法違反の活動を続けてきたことになる。しかし、私はそうは考えない。毎日新聞も自衛隊がインド洋に派遣されるにあたり、「派遣即違憲」の立場はとらなかった。

 なぜなら、テロ特措法は武力行使ではない、非戦闘地域での後方支援を定めたものだからだ。そのうえで、世界中のどこでも起こりうるテロに対処するには自国の防衛を固めるだけでは国際社会の一員としての責任を果たせない、と考えたからでもある。ただし、法律の厳格、慎重な運用は繰り返し求めてきた。

 だが、日本が提供してきた燃料が対イラク戦争に転用されていたとなれば話は違ってくる。法律の目的を逸脱するからだ。その意味で、補給燃料の転用疑惑は解明されなければならない。

 米国防総省は転用を否定する一方、使途の完全な特定は困難とする声明を発表している。これについて高村正彦外相は「流用されたというはっきりした根拠はない。これが、国際常識に基づく大人の議論だ」と言っている。

 「常識」論は6年前にも聞いた。発言者は小泉純一郎首相(当時)だった。テロ特措法案をめぐる国会論戦で「神学論争はやめて、常識で判断しよう」と野党の追及をかわした。この“小泉流”で憲法論議は脇に置かれ、海上自衛隊がインド洋へ派遣された。問題が起きて対応を迫られるたびに、「常識」論で済ませようとする姿勢は好ましくない。

 毎日新聞の世論調査では、給油継続への賛成、反対とも過半数に達していない。政府、小沢氏双方の主張とも十分に理解されていないのだ。加えて、6割の人が給油活動はテロを抑えるのに役立っていないとみている。

 現行の特措法の期限はまもなく切れ、給油活動は中断される。この際、新法の成立を急ぐより国民の多くが納得できる人的貢献策を練り直す方が賢明ではないか。

毎日新聞 2007年10月26日 東京朝刊

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