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【北陸発】

日本の秋空 消える原風景 赤トンボ激減

2007年10月26日

農薬の影響推測

水田の水たまりに産卵するアキアカネ。かつてはどこでも見られたが、今では貴重なシーンだ(上田教授撮影)

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 秋を象徴する赤トンボ「アキアカネ」が石川県内などで激減していることが、石川県立大学(野々市町)の上田哲行教授(57)=動物生態学=らの調査で分かった。群れをなして飛んでいた姿はほとんど見られなくなり、上田教授は「減り方からいって絶滅危惧(きぐ)種に指定されてもおかしくはない」と警鐘を鳴らす。 (鶴来通信部・松本芳孝)

石川県立大上田教授ら調査

羽化数 89年の100分の1

 上田教授らはアキアカネの羽化数を調べるため、県農林水産部の協力で、県内三市四町の農家の人たちに今年六月末から五週間、水田計百二十五枚の一画を見回ってもらい、羽化後の脱皮殻を集めた。

 この結果、見つかった脱皮殻は志賀町と小松市の水田三枚に計六個だけ。中能登町では大量の脱皮殻が見つかったが、ウスバキトンボという別のトンボだった。「以前なら、一日だけでも脱皮殻が十個や二十個見つかっていてもおかしくない」と驚くほどの少なさだった。また、上田教授が県立大周辺で調べた水田一枚当たりの羽化数は、一九八九年七月の一日平均三十匹から、今年は〇・三匹と百分の一になっていた。

 調査と併せ、上田教授は自ら主宰するトンボ研究者のネットワーク「赤とんぼネットワーク」でアンケートをしたところ、全国の回答者五十三人のうち四十一人が「最近急激に減った」との印象を持っていた。さらに二十四人は減少時期を「二〇〇〇年ごろから」と答えた。

アキアカネの産卵状況をチェックする上田哲行教授。手前にある水たまりが産卵場所になる=いずれも石川県野々市町で

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 上田教授によると、アキアカネの生息環境は卵から羽化までを過ごす水田の乾田化が進むなど、少しずつ悪化している。

 しかし、上田教授は「それだけでは近年の急激な減り方は説明できない」と話し、稲の病害虫予防のため育苗箱段階で使われているある農薬に着目した。この農薬は全国で一九九〇年代半ばから使われ始め、石川県では二〇〇〇年ごろに主流となった。「残留農薬がふ化して間もないヤゴを殺しているのではないか」と推測する。

 共同研究者の神宮字寛・宮城大准教授が(1)この農薬(2)以前の主流農薬(3)無農薬−の環境下でヤゴの成育比較実験をしたところ、以前の農薬では無農薬の四割程度のヤゴが生き残ったが、この農薬はヤゴを早い段階で全滅させた。

 上田教授は今秋、県立大周辺の水田でアキアカネの産卵状況を連日チェックしている。「以前は数百の赤トンボが羽をきらめかせ、空高く舞った光景はどこでも見られた。解決方法を考えていかないと、日本人の原風景がひとつ失われてしまう」と危機感を強める。さらに五年程度かけ、全国的に研究を展開していく考えだ。

 

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