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2007.10.27









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愛の旅人
モロボシダンと友里アンヌ
「ウルトラセブン」

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ウルトラシリーズなどに登場した怪獣やヒーローを保管する円谷プロ「怪獣倉庫」。子どもの夢が詰まっている=東京都世田谷区で

■宇宙の彼方に消えた恋

 東京郊外の住宅地を走る小田急線はいつも混雑しているように見える。神奈川県側に入るころから、沿線にススキの穂が揺れてかすかに旅情が漂い、やがて太平洋を望む湘南に至る。

 40年前、「ウルトラセブン」の主人公、モロボシダンを演じた森次晃嗣(もりつぐ・こうじ)さん(64)は湘南の住まいから、この電車で世田谷区の撮影現場に通った。朝7時集合で始発に乗ることも多かった。私服のダンを見つけた子どもに「セブンは空を飛べるのに、なぜ電車に乗ってるの?」と聞かれて答えに困った、と懐かしむ。

 祖師ケ谷大蔵(そしがやおおくら)駅から商店街の狭い路地を15分も行くと、円谷(つぶらや)プロダクションの砧(きぬた)社屋が見えてくる。撮影スタジオの東宝ビルト(当時、東京美術センター)までは、さらに住宅街を15分ほど歩く。今も便利な場所とは言いにくいが、周辺に畑の多い当時は田園の色が一層濃かったという。

 この一帯で作られたウルトラマンシリーズの中でもウルトラセブンは最高傑作の呼び声が高い。特に最終話「史上最大の侵略」(前・後編)で描かれたダンと友里(ゆり)アンヌの恋は印象深い。

 侵略者との相次ぐ激闘に傷つき、故郷のM78星雲に帰らねばならないダンことウルトラセブンは、自分を心配してくれる同僚のアンヌだけに、自分は人間でなくセブンだと正体を明かす。

 アンヌは「ダンはダンに変わりないじゃないの。たとえウルトラセブンでも」と答えるが、ダンは同僚を救うべく、セブンに変身して去ってゆく。

 「好き」というセリフはない。「待って、ダン、行かないで」というアンヌの叫びと涙で慕情を表した。

 この最終話で監督を務めた円谷プロ顧問の満田●(みつた・かずほ)さん(70)は「ダンとアンヌを恋仲にする考えは最初からあったんです」と振り返る。当時、企画・脚本の中心にいた金城(きんじょう)哲夫からその構想を聞いていた。

 しかし、主に子ども向けの一話完結ドラマを複数の監督・脚本家が分担して作ってゆくこともあって、なかなかふたりの関係は進まない。金城・満田コンビは、ダンとアンヌが休暇に海水浴場でデートする場面などの伏線を織り込んで、最終話につなげていった。

 アンヌを演じたひし美ゆり子さん(60)は、満田さんから繰り返し演技の特訓を受けた。「ダンに対しては、お母さんみたいにやさしく」と指導されたことが強く記憶に残る。

 「私なんて、ホントにあか抜けない、そのへんを歩いているような女の子だったんだけれど……」

 特訓のかいあって、アンヌは抜群のかれんさにやさしさを加えて、宇宙人セブン=ダンの告白を引き出し、少年ファンの心をとらえた。

 宇宙の彼方(かなた)に消えた恋を描いた金城が生きていれば、どんな続編を書いただろうか。そんな思いで、金城の出身地である沖縄に飛んだ。

※●は「のぎへん」に「斉」の旧字体

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にせウルトラマンと戦うウルトラセブン(左)。ウルトラショーは子どもに大人気=東京都杉並区で

■青春の成長と別れを描く

 きらめく才能の持ち主が夭折(ようせつ)すれば、その軌跡は伝説となって残る。

 脚本家、金城哲夫はウルトラセブンの放映が終わってまもない1969年に活動の場を沖縄に移し、7年後に37歳で早世した。それは、地球のピンチを救って去ったヒーローのような余韻を関係者に長く残すことになった。

 ウルトラシリーズは、円谷プロの創始者で特撮(特殊撮影)の神様と呼ばれた円谷英二のもとに、若い才能が結集して作られた。

 当時TBSにいた長男の円谷一と円谷プロの企画部門を率いる金城が中心になって構想をまとめ、全体を方向付けした。セブンの頃は市川森一さん(66)や金城と同郷の上原正三さん(70)ら気鋭の脚本家も活躍する。市川さんによれば、金城は「ロマンチストで酒好き、声が大きくて後輩の面倒見のいい兄貴分的な人」だった。

♪  ♪  ♪

 当時TBSから円谷プロに出向してウルトラシリーズを手がけた監督の一人で、後に独立して「帝都物語」などで知られた実相寺昭雄は「ウルトラマン。本籍地、沖縄」と表現した。アメリカ統治下の沖縄出身だった金城の微妙な思いが、「侵略の危機にさらされた人類と、地球を守る正義の味方」というドラマの核心部分を下支えした、と見る関係者は少なくない。

 金城の家族は那覇市の隣、南風原(はえばる)町で日本料理店「松風苑」を営む。北海道からも足を運ぶ熱心なウルトラファンがいる。金城の命日には毎年花を贈ってくる人もいる。

 妻の裕子さん(69)はウルトラシリーズの放映当時、幼児だった子らの世話に追われ、夫の作品を座って見た記憶がない。金城も家で仕事の話はあまりしなかったが、「僕は書き進めているうちに、アイデアがどんどん出てくるんだ」ともらしたことがある。

 長男の京一郎さん(42)は、恐らく再放送でウルトラシリーズを見た。「日本中の子どもと同じようにウルトラファンでした。正義の味方が宇宙からやってくるなんて、格好いいですよね」。ただ、10歳の時に亡くなった父の記憶は少なく、今も「ウルトラシリーズを生んだ偉人」としての像をうまく結べないという。

 金城の仕事部屋に妹の上原美智子さん(58)が案内してくれた。森のように勢いよく木が茂る庭を抜け、階段を上った2階に資料が保存してある。

 ここで金城は過って転落し、頭を打って亡くなった。沖縄でもラジオ番組のキャスターや劇作家、沖縄国際海洋博覧会の演出などで活躍していたが、酒が過ぎるようになっていた。

 「兄は沖縄の近代の物語を、小説にしたかったはずです」

 昭和30〜40年代の小説数百冊を収めた書架を前に、美智子さんは言う。若くして功成った才人の、その後の生き方は難しい。金城が円谷プロに残ればさらに大きな仕事ができたはず、と元同僚は指摘する。それでも、屈指の名作としてのウルトラセブンとともに、金城の名は語り継がれるだろう。

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祖師ケ谷大蔵駅周辺は「ウルトラマン商店街」=世田谷区で

♪  ♪  ♪

 いま日本放送作家協会の理事長を務める市川さんは、ウルトラセブンの製作当時、スタッフ・キャスト全体のマスコットのような存在が「紅一点」のアンヌ隊員だった、と振り返る。

 「だから作家もみんなアンヌ中心の脚本を書きたいわけ。でもアンヌの話は金城さんや上原さんが書くことが多くて、ペーペーの僕はキリヤマ隊長や他の隊員が中心になる脚本を受け持つことが多かった」

 撮影が進み、物語の結末をどうつけるのかスタッフも注目していた。金城は、ひそかに愛し合うダンとアンヌがわずかに心を通わせて別れる、という形で締めくくった。

 「とてもすてきな……あれ以外にはないという結末でしたね」。撮影前、スタッフに配られた最終話のシナリオを読んで、市川さんは感動した。「あれは、青春の愛と別れなんですよ」

♪  ♪  ♪

 セブンに変身して戦おうとするダンを、アンヌは懸命に引きとめる。それは、私との日常に生き続けてほしい、という女の願いだ。

 しかし、自分がセブンだという絶対の秘密を明かしたダンに、別れ以外の選択はない。男は新たな自分に脱皮してゆく。最終話を見た子どもたちは、やがて思春期になり、中年を迎えても、愛と成長と別れという体験の象徴としてダンとアンヌを忘れない――。

 市川さんの解説に感銘を受けつつ、ふと考えた。21世紀の今なら、男が「行かないでくれ」とすがり、成長した女が去ってゆく方が説得力があるのではないか。

 時代はうつろう。ダンとアンヌの恋は別れのまま、郷愁とともに記憶にとどめておく方がいいのだろう。

文・及川智洋、写真・蛭田真平

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〈ふたり〉

 宇宙人の侵略から地球を救うためM78星雲からやって来た「ウルトラセブン」は、ウルトラQ、ウルトラマンに続いて1967年から1年間、日曜夜の30分番組としてTBS系で放映された。

 セブンは普段モロボシダンの姿で、富士山のふもとにある地球防衛軍極東基地の精鋭部隊・ウルトラ警備隊の隊員として活動しているが、危機に直面するとウルトラアイで変身して侵略者と戦う。アンヌも隊員だが、普段はメディカルセンターの医師として働いている。同隊にはほかにキリヤマ隊長(中山昭二)、フルハシ(毒蝮三太夫)、ソガ(阿知波信介)、アマギ(古谷敏)の各隊員がいる6人構成。



〈ぶらり〉東京・祖師ケ谷大蔵
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