とある喫茶店でのお話です。隣の席に小学校低学年と高学年くらいの兄弟と、お母さんが座っていました。お母さんはコーヒーを飲み、兄弟は大きなコップのジュース一杯を分け合いながらケーキを食べていました。
分け合うと言っても、そこは兄弟のこと。それなりの駆け引きがあります。すきを見ては互いにコップを手元に引き寄せる。「ずるい」「なんで」―。二人は文句を言い合います。そのたびにお母さんは二人の真ん中にコップを置き直していました。
「あーおいしい」。お母さんはコーヒーをすすりながら二人の小さないさかいに目を細めます。「お父さんはこんなコーヒーが好きなのよね」。そんなつぶやきも聞こえてきました。
昨今、児童虐待をはじめ、親が子を、子が親を傷つけ、さらには殺害する事件が相次いでいます。そんなニュースに接するたびに「親子のきずな」とは何なのかと思ってしまいます。親を失ったり、親はいるけれど養育できない場合に児童養護施設がありますが、その数は全国に五百五十八(二〇〇五年十月一日現在)、およそ三万人の子どもたちが暮らしています。うち六割ほどが虐待のためと言われます。
さて、喫茶店の兄弟の笑顔は無邪気です。精いっぱいの背伸びと、お母さんへの甘えもうかがえます。兄は「お母さん、食べる」と言って自分のケーキを分けて差し出し、母を気遣います。弟は言いました。「お母さん、ぼくがおらんとおえん?」。お母さんはもちろんこう答えました。「うん、おらんとおえんよ」
(笠岡支社・河本春男)