一刻も早く病院へ届ける必要のある患者を搬送する「空飛ぶ救急車」救急ヘリコプターの需要が高まっているのを受け、総務省消防庁は、自治体の消防防災ヘリの二十四時間運用に向けた検討を始める。
消防防災ヘリは、現在、佐賀、沖縄両県を除く四十五都道府県に配備されている。道路事情の悪い山間部や交通の便のない島しょ部でも到着が可能で、迅速な搬送で患者の救命率が向上する。
岡山市は消防ヘリ「ももたろう」を配備し一九九七年から救急ヘリとして運用している。航空救助隊員が搭乗し、救急車と落ち合った際に必要があれば救急救命士が患者と一緒に乗り込む方式だ。火災、救助など「ももたろう」の災害業務出動の中では救急搬送が最も多い。
岡山県は消防防災ヘリがなく、石井正弘知事は地震対策などで防災ヘリ導入に意欲を示した。「ももたろう」の出動が多いため、機体のオーバーホールや火災、救助で重なった時も補完運用ができることになる。
広島県は、二〇〇五年から県の防災ヘリと、広島市消防局の消防ヘリの二機を活用して、医師と看護師を病院のヘリポートで乗せてから現場に急行する「ドクターヘリ」事業を行っている。現場到着時間が短縮され、一定の救命効果を挙げていることが確認されている。
しかし消防、防災の掛け持ちで運用している自治体で二十四時間運用が本当に可能なのか。機体やスタッフを増やさないと難しかろう。
自治体の消防防災ヘリで二十四時間運用が可能なのは、ヘリの数が多い東京都、埼玉県、仙台市に限られているのが実情だ。
消防庁では、二十九日に専門家らによる検討会の初会合を開き、〇九年三月に中間報告をまとめる方針という。二十四時間運用のためには、夜間の計器飛行を可能にする装備や操縦士の交代要員確保、照明のあるヘリポートの整備も重要で、昼間と違って騒音問題などへの対策にも配慮する必要がある。
倉敷市の川崎医科大付属病院は、〇一年から救急専門医と看護師が病院から現場に出動し治療を行いながら搬送するドクターヘリを運用する。年間の出動件数は四百件を超え、患者の救命や後遺症の軽減に成果を挙げている。
ドクターヘリについては、今年、超党派による特別措置法が成立した。配備する救命救急センター指定病院に対する国や都道府県からの補助制度などが盛り込まれた。自治体の消防防災ヘリでも思い切った助成を考えたい。
中国が初の月探査衛星「嫦娥(じょうが)1号」を打ち上げた。今月末には地球を回る軌道を離れ、月へ向かう予定だ。
胡錦濤指導部が二期目に入った直後の打ち上げであり、中国指導部としては月探査を自国の宇宙技術誇示と国威発揚につなげる考えのようだ。嫦娥1号は十一月上旬に月周回軌道に入り、約一年間にわたって月面を撮影したり月の土壌の特性を調べる。
重要な目的が月の資源探査である。ウランやチタンなど十四種類もの資源の分布や含有量の分析が探査項目に挙がっている。中国は将来的に、月の土壌や岩石のサンプル採取、地球への持ち帰りも計画しており、当局者らは月の資源獲得に積極的に挑む意志を明確にしている。
日本が九月に月探査機「かぐや」を送り出し、欧州やインドも探査機打ち上げを計画している。日本を含め各国が月の資源探査を目的の一つにしているのは事実だ。だが、かつての植民地獲得合戦のような争いが月で繰り広げられる事態は避けるべきだ。
月での資源開発を想定した条約に一九八四年発効の「月協定」がある。月で資源採掘が可能になった場合、新たに国際的な枠組みをつくって協議するよう定めているが、日本、米国、中国をはじめ宇宙開発の有力国はどこも協定に加わっていない。
月での資源開発が現実味を帯びてきた今、協定の存在をてこに、有力国が枠組みづくりと具体的な協議に向け動き始める時期にきている。
中国は月探査の実績が将来の協議を有利に導くと考えているようだが、あまりの国益優先は各国の警戒を呼び摩擦を生むだけだ。探査データの公開など宇宙開発での国際協調を重視すべきだろう。
(2007年10月27日掲載)