診療報酬不正請求で藤枝市立総合病院(藤枝市駿河台、金丸仁院長)が保険医療機関の指定を取り消された問題で、社会保険庁静岡社会保険事務局は26日、11月1日付で再指定すると発表した。山本雅彦局長は「再指定しないと地域医療の確保に支障が生じると認められる」などと地域医療への影響を主な理由に挙げ、原則5年間とされる指定取り消し期間よりも大幅に短い1カ月での復帰を認めた。
9月末で休診した歯科口腔外科以外の全22診療科は、11月から通常の保険診療を再開できる。
山本局長ら幹部は県庁で開いた会見で「県中部の最重要基幹病院の長期の空白は住民の生命、健康に直接影響がある」と述べ、再指定の条件として病院側に提示した▽保険診療に対する院内の改善▽診療報酬の返還金1億6900万円(加算金を含む)の完納―が確認できたことを挙げた。
処分期間そのものについて山本局長は前例だと再指定の最短期間は1カ月だったことを説明し、「大病院だからといって(保険診療のルールに)のっとらない診療を大目に見ることはできない」とした上で「地域医療を考えると、1カ月は妥当」と話した。
再指定は同事務局の諮問機関「静岡地方社会保険医療協議会」の同日の答申を受けて決定した。同事務局によると、協議会では再指定への反対意見はなかったという。
同病院は、保険診療が認められていないインプラント(人工歯根)治療の事前手術などを保険請求していたとして、10月1日から保険医療機関の指定を取り消されていた。※
地域医療へ影響を考慮
藤枝市立総合病院の保険医療機関指定取り消しからわずか1カ月での再指定。不正請求への断固とした姿勢を示しながらも、地域医療への影響は最小限にとどめたいという静岡社会保険事務局の意向が反映された結果だ。
藤枝地域では、同病院と一般の開業医が緊密な病診連携体制を築いている。中核となる同病院の保険医指定取り消しが長期に及んだ場合、藤枝だけでなく志太榛原地域の医療全体に著しい支障を来す恐れがあった。
同病院は平成18年度決算で67億円に上る巨額な累積赤字を抱えており、これ以上の経営環境の悪化は病院の存続を脅かしかねない。「1カ月」は事実上のデッドラインだった。同事務局は不正請求の当事者である歯科口腔外科の無期限休診を条件に、再指定を認めた。
早期再指定を求めて要望活動を続けてきた市や病院関係者、市民には安堵(あんど)の表情が浮かぶ。しかし、病院には再発防止策の確実な推進や市民の信頼回復、経営再建など重い課題を課せられた再出発となる。
一方で医療関係者の間では「民間への処分と比べて甘すぎる」との不満の声は多く、最短期間での再指定は不公平感を残したことも否めない。
(藤枝支局・大石英司)
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