現在位置:asahi.com>社説 社説2007年10月27日(土曜日)付 浜岡原発判決―これで安心できるのか30年以内に87%の確率で起きるとされる東海地震。その想定震源域の中心にあるのが静岡県の中部電力浜岡原発だ。 巨大地震の揺れには耐えられないから、すぐに運転をやめてほしい。こう求めた住民らの訴えが、静岡地裁で退けられた。「地震への安全性は確保されている」というのが判決の内容だった。 だが、ひとたび原発から放射能が漏れ出せば、被害は甚大なものになる。いずれやって来る東海地震は、いまの想定の規模に収まるのか。そうした住民の不安が今回の判決で静まるとは思えない。 裁判で争われたのは、国の中央防災会議による東海地震の揺れの想定が妥当かどうかだ。この想定をもとに、中部電力は地震に耐えられるとしてきた。原告側は「想定は甘い」と主張した。だが、判決は「中央防災会議の想定は十分な科学的根拠に基づいている」と述べた。 浜岡原発は運転開始から31年がたっている。原告側は「老朽化で、設備にひずみや腐食、ひび割れが進んでいる」とも主張した。判決はそうした可能性を認めたものの、「点検や検査をしているので安全性に影響はない」と判断した。 浜岡原発では、これまでに事故がたびたび起きている。これに対しても、静岡地裁は「事故や不適切な事象が起きるたびに必要な対策が講じられ、安全確保に効果を発揮した」と述べた。 判決は、国の安全基準とそれに基づく原発の耐震設計や運用をあまりにも信用しすぎていないか。 問題となっている東海地震は、地球を包むプレート(岩板)の動きに直結した大規模地震だ。発生の仕組みは大づかみにわかっているとはいえ、過去の地震記録の使い方や解析法の違いで揺れの予想は大きくぶれる。海底地震計の観測網などが充実すれば、地中の様子がもっとわかり、予想が変わる可能性もある。 こうした不確かさを抱えるのが、巨大地震である。その上に載っている原発は安全性をいっそう厳しく見て、減らしていくべきだろう。 もうひとつ、忘れてならないのは、この判決がすべての原発の耐震力にお墨付きを与えたものではないことだ。 東京電力の柏崎刈羽原発など多くの原発で問題になっているのは、活断層型の地震だ。規模が小さくても、足もと近くで起こるので被害は大きくなる。活断層のありかさえはっきりしていない「見えにくい敵」である。 これに比べれば、プレート境界型の地震は「見えやすい敵」ともいえる。 今回の判決は「見えやすい敵」に対する中央防災会議の見立てを支えにしている。だが、「見えにくい敵」の活断層型の地震に対し、原発がどのくらい耐えられるかは別の問題だ。 耐震性の論争に決着はついていない。国と電力会社は今回の判決に慢心することなく、耐震性を高めることを急がなければならない。 年金流用禁止―与党もまじめに考えよう野党が多数を握る参院で、民主党が提出した年金保険料流用禁止法案の委員会審議が始まった。 年金の保険料は年金給付にしか使わない。保険料で賄われている年金の広報や相談、オンラインシステムの運営などの事務経費はすべて税金で負担する。こんな内容の法案だ。 法案は参院では可決されるが、自民、公明両党が反対なので、衆院で廃案となる方向だ。しかし、与党は民主党が指摘した問題にきちんと答えるべきだ。 というのも、年金の保険料はグリーンピア(大規模年金保養基地)の建設や福祉施設、果ては職員のゴルフボール、マッサージ機などにかつて流用されたからだ。総額は6兆8千億円になる。 また、年金の事務経費の一部はもともと税金から出していた。だが、苦しい財政を助けるため、98年から暫定的に保険料で負担するようにした。 政府は社会保険庁を解体し、10年に非公務員型の新しい公法人を立ち上げる改革法を6月に成立させた。そのなかで、福祉施設の建設は禁止し、保険料で賄う事務経費を本当に必要なものに限定したという。そのうえで、かつて税でみていた部分も含め、事務経費は恒久的に保険料をあてることにした。 これでは保険料を事務経費へ毎年2千億円余り流用することになる。すべて税で賄え、というのが民主党の主張だ。 これまでの経緯を考えれば、民主党の提案にはそれなりの説得力がある。 一方、福田首相は「年金の事務経費は保険料で賄うのが妥当」と譲らない。医療や雇用など他の社会保険も保険料で運営しており、諸外国でも保険料があてられている国が多いからだ。 しかし、首相も、社保庁のこれまでのずさんな保険料の管理や無駄づかいを思い起こしてみるべきだろう。 とくに年金は特別会計で運営される。税金なら国会や財務省のチェックが働きやすい。保険料で賄うと、かつての過ちを繰り返すことになりはしないか。 それだけではない。年金の運営は厚生労働省が全体の責任をもち、徴収や支給などの実務は非公務員型の公法人が担当する。さらに、多くの業務を民間へ委託することになっている。組織がこんなに分散すると、ムダな事務経費が生じやすくなるはずだ。 法案に反対するなら、首相は年金会計をもっと透明にして、こうした心配がないようにするとともに、経費削減などの具体策を示すべきだろう。 例えば毎年の事務経費の上限を決め、使い道も費目ごとに明示し、それをホームページで公開する。利用者への年金定期便にも記載する。こんな踏み込んだ情報公開をとるべきだ。 一方、民主党は流用禁止に必要な財源をどうするのか、審議のなかで示してもらいたい。たんに「行政のムダをなくして」というだけでは説得力がない。 PR情報 |
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