上野動物園(台東区)の人気者だったメスのキリン、フミが24日、死亡した。腸炎だった。享年24はキリンとしては高齢だという。同園のキリンはメスのコハル(10)だけになった。
フミは第二次大戦前に来園した「長太郎」と「高子」のひ孫。上野動物園では戦時中の1943年、ゾウやライオン、ヒョウなど27頭の猛獣が毒入りのエサなどで処分された。しかし、キリンなどの偶てい類は処分を免れ、暗い世相の中で子どもたちを励ました。
戦争を乗り越えて受け継がれた命だったが、フミは雑種だったことから繁殖が見送られ、子供はいない。同園で戦前からの血統を受け継ぐ動物はいなくなった。
「短い時間だったが毎日手渡しでエサをあげる私を認めてくれた。とても残念」。昨年4月から飼育を担当した生井沢(なまいざわ)初枝さんは悲しみを隠さない。
「落ち着いた性格のフミは、若くて神経質だったコハルのお姉さん的存在でした」と振り返る。キリンは群れで生活する動物。放飼場でいつもフミの後ろにくっついて歩いていたコハルは「ショックを受けて落ち着きがない。表情や動きから寂しがっていることがわかる」という。
同園は結婚適齢期のコハルの繁殖のために結婚相手を募集している。生井沢さんは「コハルも年ごろの女性。早く『いい人』が見つかってほしい」と悲しみを抑え、次世代に期待する。【佐藤賢二郎】
毎日新聞 2007年10月26日