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2007年10月26日(金曜日)付

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食品の偽装―ごまかしはもうご免だ

 発覚から4カ月、一連の食品偽装問題の始まりだった食肉加工卸会社ミートホープの社長が逮捕された。

 豚や鶏など値段の安い素材を混ぜたミンチ肉を「牛100%」と偽って出荷していた、というのが逮捕容疑だ。

 だが、ごまかしはそれにとどまらない。家畜の血液などで赤みをつけて牛に見せかける。肉の産地を偽る。そんなでたらめなことを長年にわたって重ねてきた疑いもある。責任を厳しく追及されるのは当然のことだ。

 うその表示をしてだますことが、食品業界では日常的におこなわれているのではないか。ミートホープの事件で浮かんできたのは、そんな疑問だった。

 案の定、人気のチョコレート菓子「白い恋人」で賞味期限の改ざんが発覚した。老舗(しにせ)の菓子メーカー「赤福」は、製造日を偽ったばかりか、売れ残った商品まで再使用していた。

 秋田県の会社は「比内地鶏」とうたいながら、別の鶏肉を使った品物を売り続けた。「名古屋コーチンの2割は偽物」という調査結果も発表された。

 偽装がここまで相次ぐと、どの食品会社も信用されなくなる。

 食品会社は不正が発覚すれば、急速に消費者が離れ、経営が行きづまる。そんな過去の教訓も業界では生かされていない。加工食品や菓子が店頭にあふれ、目が行き届きにくいのをいいことに、おいしいものをきちんとつくるという意識が弱まっていると思わざるをえない。

 これは深刻な事態だ。業界が信頼を取り戻すのは容易ではない。

 一方で、悪いことばかりがあったわけではない。不正に対し、従業員たちが声を上げ始めたからだ。

 ミートホープをはじめ、不正の多くは内部告発をきっかけに明るみに出た。農林水産省の「食品表示110番」へ寄せられる情報も急増している。

 非正規社員が増え、社内の情報が外部に出やすくなった面があるだろう。同時に、「安全や安心にかかわる不正はどうしても見逃せない」と考える人たちが多くなっているのではないか。

 会社のやり方が正しいかどうか。従業員もきちんと見ていることを、経営者は肝に銘じるべきだ。

 課題は行政にも突きつけられている。ミートホープの偽装では、元役員らから告発を受けながら、農水省と北海道庁は情報をたなざらしにした。職員の意識と態勢を改めなければならない。

 相次ぐ偽装の背景には、ブランド銘柄の食品をもてはやしたり、製造日の新しい加工品ばかりを求めたりする消費者の姿勢もある。そうした買い物の仕方をもう一度見直すことも大切だろう。

 だが、それも品物や製造日が正しく表示されていることが大前提だ。

 食品会社は消費者をこれ以上裏切ってはいけない。ごまかさない、というのは最低限のルールである。

世界金融不安―米国の赤字体質が根本に

 米国の低所得者向け住宅融資(サブプライムローン)問題をきっかけにした世界金融市場の動揺は、2カ月半たっても余震が続いている。

 今週も、米国の大手証券メリルリンチが9000億円もの評価損が出たと発表し、株式市場や為替市場が揺れた。これから各国で金融機関の損失額が次々と出てくるだろう。米国の景気への悪影響も来年にかけて本格化するにちがいない。

 そもそも混乱の発端は、収入が足りない人向けに、住宅の値上がりだけを頼りにローンを膨らませたことだ。米国内の問題だったはずが、危機は欧州で噴き出した。いつか見た光景だ。10年前の夏、タイ通貨の投機売りをきっかけに世界中へ広がった通貨危機のことだ。

 金融の自由化に加え、債権を証券に換える金融技術が発達し、投機資金は国境をものともせずに走り回る。マネー経済が実体経済を振り回し、投機とは無縁の国民生活をも巻き込んでしまう。新しいタイプの恐怖である。

 ワシントンで開かれた主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)は、こうした事態への対応策を来年4月までにまとめることにした。だが、具体策が打ち出されても対症療法の域を出まい。

 根治をめざすには、世界経済の巨大な不均衡に目を向ける必要がある。

 いま世界の資金の循環は、経常赤字が限界を超えて増え続けている米国に対して、黒字を稼ぐ中国や日本などのアジア諸国と産油国が資金を出すことで保たれている。この二極構造のアンバランスが90年代末ごろから急拡大している。

 米国はいま、世界から差し引き300兆円もの借金をしている。きっかけさえあれば市場はこの極端な偏りを是正する方向へ動き、混乱しかねない。

 中国や産油国の資金はいったん米国や欧州に流れ、ヘッジファンドの手で金融商品に作り替えられて、投機資金として国際市場を駆け回る。こうして危機の芽が世界にばらまかれている。

 米国の経常赤字が大幅に増えたのは、国内の貯蓄が極端に低下したことの裏返しだ。輸出力を大幅に上回る商品や物資を世界から輸入し、赤字をたれ流す。そこには、サブプライム問題にみられる消費の行き過ぎがある。

 不均衡に歯止めをかけるには、まず米国が国内の消費を緩やかに引き下げて輸入を抑えることだ。同時に、輸出競争力も高めて経常収支の赤字を減らす。これは世界の景気を冷やすことにつながるが、長い目で見れば、こうした調整を避けて通ることはできないだろう。

 同時に中国などは社会基盤づくりに資金を使い、輸出依存から内需重視の経済に変えていく必要がある。同じことは日本の課題でもある。

 新型の金融危機を21世紀型と呼ぶ人も多い。これを乗り切るには、20世紀に盛り上がった大量消費社会の見直しまで視野に入れなければなるまい。

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