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時津風部屋いじめ騒動で将来の人材不足の危機

 時津風部屋の若い力士が急死した問題が世間を騒がせるなか、角界への入門を望む志願者が激減している。今年の志願者は93人で、若貴ブームに沸いた1991年の234人から比べれば半分以下。そこに親方や兄弟子によるイジメとも思える暴行があったことが発覚しては、さらに減るのは間違いない。

 親方がビール瓶で殴ったことなど、もはや稽古の範疇とは思えない。だが、筆者は同様な光景を今から十数年前に毎日見ていた。筆者があるプロレス団体にいたとき、相撲と同じく、若い選手は住み込みで、そこには先輩レスラーからの酷いイジメがあった。

 ターゲットにされていた1年先輩の練習生Aさんは、それこそビール瓶で殴られることなど日常茶飯事だった。 あるときなど、Aさんがリングのコーナーポストに上がったら、人気の先輩選手が投げつけた鉄アレイが頭部に命中。大流血しながらリング外の地面まで2メートル以上も落下した。それでも先輩選手は指をさして爆笑。重傷の彼に「ジュースを買ってこい」と命じた。本来は病院に行くべきだが、Aさんは苦しそうな表情を浮かべながら、頭にタオルを巻いて買い物に出かけた。

 別の日には「おいリングに上がれ!」と先輩選手にいわれ、グローブでひたすら殴打された。そのグローブはミット打ち用の皮の薄いもので、Aさんの顔はボコボコに腫れ上がった。

 プロレスラーの大半は真剣勝負のプロ格闘技は未体験だ。今のように総合格闘技のテレビ放送もなかった時代で、殴ってどうなるかが分かっていない。だからといって打撃競技に参加する勇気もない小心者ゆえのイジメ行為だったと思う。

 いずれにせよ、そうしたいじめは一歩間違えれば死につながり、相当な騒ぎになっても不思議じゃなかった。

 結局、Aさんは逃げるようにして姿を消した。だが、そこまで我慢を重ねていたのは「いつかレスラーになれる」という想いだった。夢を持って入門してきた人間をこうして失っていることが、後に人材不足を誘発させる。

 結果、今のプロレス界は、体の小さな人間でも入門できるようになり、不景気で寮を持つ団体も少ないから先輩のカバン持ちすらやったことのないアルバイトレスラーばかりになった。

 スポーツの重要な生命線といえる競技者を減らすことはジャンルの存続危機につながる。今やプロレス界の有力選手が「まだやっていたのか」というオジサンオバサンばかりになったのを見ると、角界が同様になることを危惧せずにはいられない。
(格闘技ジャーナリスト・片岡亮)(2007.10.09紙面掲載)
 

投稿日: 2007年10月26日

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