広島高裁(楢崎康英裁判長)で20日にあった山口県光市の母子殺害事件差し戻し控訴審集中審理で、遺族の本村洋さん(31)が行った意見陳述の要旨は次の通り。
私が、この裁判で意見陳述を行うのは2回目となります。初めて意見陳述した時は、死刑判決が下されない可能性が高いと思っていました。だから、君が社会復帰した時に、同じ過ちを犯して欲しくないと思い、一生懸命話しました。
その時から5年以上の歳月が流れ、死刑判決が下される可能性が高まり、弁護人が代わり、君は主張を一変させた。
なぜ1審・2審で争点になっていなかったことが、唐突に主張されるようになったのか。遺族としては、弁護人が代わることで、ここまで被告人の主張が変わってしまうことが非常に不可解でなりません。
君がこれまで、検察側の起訴事実を大筋で認め、反省しているとして情状酌量を求めていたが、それは全て嘘だったと思っていいのですか? 私が墓前で妻と娘に報告してきた犯行事実は、すべて嘘だったと思っていいのですか?
どうしても君が心の底から真実を話しているように思えない。君の言葉は、全く心に入ってこない。この裁判で君の主張が認められず、裁判が終結したとしても、私には疑心が残ると思う。
事件の真相は君しか知らない。
だから今後、君が謝罪の言葉を述べようともその言葉は信じられないし、君が謝罪の手紙を何通綴ろうとも読むに値しないと思っている。
もし、ここでの発言が真実だとすれば、私は君に絶望する。君はこの罪に対し、生涯反省できないと思うからだ。君は殺意もなく、偶発的に人の家に上がり込み、2人の人間を殺したことになる。こんな恐ろしい人間がいるだろうか?
私が君に言葉を掛けることは、これが最後だと思う。私が事件後に知った言葉を君に伝えます。中国、春秋戦国時代の老子の言葉です。「天網恢恢(てんもうかいかい)、疎にして漏らさず」。この言葉の意味をよく考えてほしい。
君の犯した罪は万死に値する。君は自らの命をもって罪を償わなければならない。
裁判官の皆様。私は事件当初のように心が怒りや憎しみだけに満たされているわけではありません。しかし、冷静になればなるほど、命でもって償うしかないと思いを深くしています。それが、私の正義感であり、私の思う社会正義です。正義を実現するために、司法には死刑を科していただきたくお願い申し上げます。
◇100%立証できたと自信 弁護団が会見「事実ねじ曲げていない」
閉廷後、広島弁護士会館で8人の弁護団が会見。「今の司法は『疑わしきは被告人の利益に』が存在しないかのような状況。300%の主張をしないと我々の立証は採用されない」と話し、「100%の立証はできたとの自信はある」と振り返った。
また、元少年との接見を担当した弁護士は「異常ともいえる注目と批判のなかでの弁護活動。しかし、弁護団は被告の利益のために事実をねじ曲げているのではない」とし、「今回の事件を担当し、初めて世間からにらまれている刑事被告の気持ちが分かった。刑事弁護とは何かをもう一度、考えてほしい」と涙で訴えた。
◇被告人質問一問一答
被告人質問の要旨は次の通り。
【弁護側】
--本村さんの意見陳述をどう思ったか。
絶望する状況を生んだのは僕だ。責任の重みを痛感し、事件と向き合っていきたい。生涯償っていきたい。
--生きたいと思っているか。
(亡くなった)2人のことを思うと生きたいとはいえないが、よければ生かしてもらいたい。
--生きて何をしたい。
僕は当初、弁護態勢が十分ではなかった。でも今は語れるようになった。同じ立場の人のために語り続けたい。
--遺族には。
まず会いたい。会って本当の僕自身を見てほしい。
--父の暴力や母の自殺、今回の事件。これまで幸せを感じたことは。
まったくないとはいえない。今は人との触れ合いの大切さを実感している。小さな幸せを大きな幸せにつなげていきたい。
【検察側】
--(遺族側の)意見陳述の時、何を書いていたか。
陳述の中身を紙に書いていた。
--その紙に縦に線を引くのをみた。
引いていない。(裁判官らがメモを閲覧し、線がないことを確認。その後弁護側の質問に対し)検察は、なめないでいただきたい。
毎日新聞 2007年9月21日