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薬害肝炎:製薬会社は197人分の氏名把握

 血液製剤「フィブリノゲン」の投与でC型肝炎に感染した418人分のリスト(症例一覧表)が放置されていた問題で、リストを作った三菱ウェルファーマ(現・田辺三菱製薬)は197人分の氏名を把握していたことが、22日分かった。このうち住所も分かっているものは40人で、個人の特定につながる情報がない症例も50人分あった。厚生労働省は同日、リスト記載者に感染の告知を急ぐよう指示したが、全員には情報が伝わらない可能性が高い。

 リスト記載者の個人情報は、厚労省も2人の実名と116人のイニシャルを把握していたことが明らかになっている。リスト作成時に本人への告知を怠ったことが、治療を遅らせたり症状を悪化させた恐れもあり、同社と厚労省はそれぞれ調査チームを作り、結果的に放置した当時の判断が適切だったかを検証する。

 同社の葉山夏樹社長らが舛添要一厚労相と面会し、状況を説明した。418人のうち197人は氏名が分かり、うち40人は住所も記載されていた。イニシャルのみの記載は170人で、住所まで分かるのは2人だけだったという。告知の指示に対しては「迅速、誠実に対応したい」と了承の意向を伝えた。

 小峰健嗣副社長は報道陣に、症例によって氏名などの把握にばらつきがある理由を「主な情報源である医療機関からの副作用報告は、個人の特定を目的にしていないため」と説明。国にリストを提出した02年7月時点で、医療機関を通して告知をしなかったことについては「プライバシーの問題がある。自覚症状のない人も含めて幅広く呼び掛ける方が効果的と判断し、約7000カ所のフィブリノゲン納入医療施設を(04年12月に)公表している」と妥当性を強調した。【清水健二】

 ◇国は不作為認め、リスト記載者や原告に謝罪を

 418人の匿名の肝炎感染者リストのうち、国は2人分、製薬会社は197人分の氏名を把握していたことが明らかになった。しかし、問題はその数ではない。当時、副作用を報告してきた医療機関に依頼さえすれば、氏名が分からなくても相当数の感染者に告知はできたはずだ。リスト作成の時点で、C型肝炎は放置すれば死に至る重い病気と分かっていた。感染者の命を救うための選択を最優先しなかった国と製薬会社の責任は重い。

 血液製剤による肝炎感染は87年に問題化し、さまざまな情報が国や製薬会社に集まった。医療機関からの副作用報告は、匿名を原則に統計処理される。国や製薬会社が個人情報を把握しなかったり、感染者本人への告知を促さないことが、ただちに不作為となるわけではない。しかし、報告された02年7月当時は、既に1万人以上の感染が疑われており、非加熱製剤を血友病以外の患者に投与した約800の医療機関も公表されていた。感染者への検査呼び掛けは緊急の課題で、副作用報告は本人に感染を知らせる重要な情報として取り扱われるべきだった。

 ちょうど同じ時期、薬害エイズ裁判の弁護団を中心に、肝炎問題で提訴の動きが始まっていた。名乗りを上げた原告は当時約20人。418人に告知されれば一気に増えた可能性があった。原告側の「訴訟の拡大を恐れてリストを放置した」との批判には説得力がある。

 また、肝炎訴訟の原告2人の投薬情報を持っていながら、国が訴訟で「投与証明が不十分」と主張し続けたことも、患者に対し誠実さを欠く。法的責任は別としても、国は不作為を認めて、リスト記載者や原告に謝罪すべきだ。【清水健二】

毎日新聞 2007年10月22日 22時01分 (最終更新時間 10月23日 0時24分)

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