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「記者発」

広島発)裁判員制度前に地裁で模擬裁判

2007年10月23日

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裁判員選任後、法廷で行われた模擬裁判=17日午後、広島地裁で、代表撮影

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 09年春の裁判員制度の導入を前に、広島地裁で17〜19日、裁判員の選任から判決言い渡しまでを本番さながらに実施する模擬裁判が開かれた。裁判員6人と裁判官3人が量刑や犯罪事実などについて活発な議論を交わした。3日間の審理や評議の様子を報告する。(向井光真)

■■ 選任に2時間半 ■■

 17日午前9時。模擬裁判に協力する県内企業12社から30人が広島地裁の会議室に集まった。

 30人は地裁職員から選任手続きや担当する事件の概要説明を受けた後、その事件と特別な関係があるか▽辞退を希望するか、などの質問に答え、裁判官、広島地検の検察官、広島弁護士会の弁護士の5分程度の面接に臨んだ。

 4人が仕事などを理由に辞退を申し出た。裁判官が、業務を他の人にかわってもらえるかどうかなどを基準に2人の辞退を認めた。このほか弁護士が理由を示さず4人を不選任。残る計24人からパソコンを使った抽選で裁判員6人が決まった。

 選任手続きは一部を省略して時間短縮を図ったが、約2時間半かかった。選ばれなかった会社員男性(46)は「時間が長い」とこぼして帰った。

 一方、面接にあたった小笠原正景弁護士は「時間短縮したために裁判員候補者に関する情報がほとんど得られなかった」と指摘した。類似事件に巻き込まれた経験がある場合などは裁判員として不選任にした方がよいからだという。

■■ 殺意が争点 ■■

 裁判は妻が子育てなどを巡って夫と口論となり、果物ナイフで夫の右胸を刺すなどして殺害した事件を想定。

 法廷では黒い法衣を着た裁判員6人は、裁判官3人をはさんで着席。「殺意の有無」を争点に審理が進んだ。

 検察側は夫の浮気が発覚してから夫婦仲が悪かったうえ、妻が台所からわざわざ果物ナイフを持ち出した点などから殺意があったと主張した。弁護側は「偶然ナイフが刺さってしまった事件で殺意はない」と主張し、結婚当初から夫に暴力を受けていた経緯なども説明した。

 被告人質問では裁判員も質問した。
 裁判員「(ナイフを夫の顔に近づけたのは)本当に怖がらせるためだけですか」
 被告役「はい、そうです」
 裁判員「話し合いや別居など他の手段で解決できたのでは」
 被告役「相談しても解決できないと思った」
 検察側は懲役12年を求刑。弁護側は傷害致死罪を適用のうえ執行猶予を求めた。審理は2日間で計8時間に及んだ。

■■ 全員で議論 ■■

 その後、有罪か無罪と有罪の場合の量刑を決める評議に移った。「皆さんの常識で考えながら話し合っていきましょう」。甲斐野正行裁判長は冒頭、円卓に座った裁判員6人に語りかけた。

 ナイフで攻撃を加えた回数▽刺した傷の深さ、などを手がかりに討論を始めた。

 6人のうち大半は当初、「殺すつもりなら背後から刺したり、素早く刺したりしているはずだ」などとして殺意に否定的だった。

 だが、裁判長と裁判員がもみ合う姿勢をとりながら犯行時の様子を再現するなどして議論を深めるうちに殺意を認める裁判員が次第に増えた。結論は殺人罪を適用した。

 量刑の検討では裁判員の意見は懲役2年6カ月〜10年まで分かれた。裁判官は「被害者が亡くなった結果は重大」と懲役7、8年を主張した。評議の結論は多数決で懲役5年に決まった。松本亮弁護士は「厳罰化を求める昨今の傾向から量刑は厳しくなると予測していたが逆だった」と話す。

■■ 戸惑う声も ■■

 甲斐野裁判長は模擬裁判後、記者会見し「証人や被告人に対して裁判員は的を射た質問が多く、思わずひざを打つこともあった。私たち(裁判官)が当然と考えていることがどれだけ根拠を持ち、一般に通用するのか考え直すことが多かった」と総括した。

 裁判員にとっては戸惑いの連続だったようだ。「法律のプロの裁判官と素人との知識レベルの差が大きく、理解するのが大変」といった意見や「被告の人生を左右する量刑などは責任が重く、自分の判断が正しいのか悩んだ」との心理的な負担も大きいとの意見も出た。

《ひと言》・・・
 審理や評議での裁判員たちの鋭い質問や指摘に思わずうなった。検察側や弁護側があまり言及しない点にも議論が及び、模擬裁判といえども市民や関係者が納得できる判決を出そうとの真剣さが伝わってきた。私も裁判員になったつもりで傍聴したが、判断にエネルギーが要求されどっと疲れた。裁判を傍聴したことのない市民が裁判用語を理解し、事件の内容を判断するのは大変だと感じた。法曹三者は課題点をよく検討し、市民が参加しやすい制度にしてほしい。

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