中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 日刊県民福井から > 焦点 > 2007年8月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【焦点】

2007年8月20日

産科医の不足 大学の派遣頼み

県内2病院でも分娩業務停止

 地方を中心に産婦人科医不足が深刻化している。本県も例外ではなく、今年に入り2病院が分娩(ぶんべん)業務を相次いで停止。両病院とも▽NICU(新生児特定集中治療室)がある▽小児科医が常駐している−という緊急時の対応が可能な施設を持った総合病院だった。産婦人科医不足は今、地域医療の中枢を担う総合病院を直撃している。少子化対策にも影響を及ぼしかねない医師不足の現状に迫った。 (加藤聖子)

写真

研修医に手術の指導をする小辻文和教授(右)。「世界トップレベルの情報を教えたい」という姿勢で指導に当たっているという=永平寺町の福井大学付属病院で

■不 安

 昨年十月に長男を出産した福井市の松田知峰(ちほ)さん(32)は、産科医不足の影響を受けた一人だ。初産の時は難産だったたけに不安も大きく、実家近くで出産したいと思っていたが、「実家近くの総合病院は医師が少なく、いざというときのことを考えると不安で福井市内の病院を選んだ」という。

 出産は女性にとって大きな喜びであるとともに不安が尽きない難事業でもある。それだけに松田さんは「“安全なお産”にはそれなりの設備が必要。安心して生める病院がなくなったら、どこで生めばいいんだろう…」と不安を募らせ、総合病院の必要性を訴える。

『つらい』敬遠する若者

■原因

 こうした不安解消の鍵を握るのが、他の病院に医師を派遣できる態勢を整えている大学病院だ。ところが、その大学病院でも、異変が起きている。二〇〇四年に導入された新医師臨床研修制度に基づき、研修中にさまざまな診療科を回った研修医は、他の診療科と比較して過重負担の産婦人科を敬遠する傾向が顕著になっているという。

 さらに、多様な症例を経験できる大都市圏の一般病院を研修先に選択できるようになったことが追い打ちをかけ、それまでへき地の病院に医師を派遣してきた各地の大学病院が医師を一斉に引き揚げる事態に発展した。これが、全国で産婦人科医不足が叫ばれ始めた一因でもある。

■現状

 こうした指摘に福井大学付属病院産婦人科教室の小辻文和教授(60)は「(産婦人科は)二十四時間、三百六十日勤務」と表現し、その過酷な勤務実態を紹介する。医学を学ぶ“医師の卵”たちも、その厳しさを肌で感じている。来年三月に同大学を卒業する女性(25)は「夜、お産で呼ばれたくない」と話し、男性の学生(27)も「患者のほぼ100%が女性であり、男性には理解できないこともあって(産婦人科医は)選択肢に入れにくい」と本音を漏らす。

 それでも、同大産婦人科は自助努力もあって、恵まれている。研修医制度の一期生二人が〇六年度に入局。〇八年度も既に一人の入局希望者がおり、医師不足も切迫した状況ではなく、現在は県内外十二の関連病院に医師を派遣している。

 分娩業務停止を決めた勝山市の福井社会保険病院との間では、今年三月に連携体制を確立し、今後同様な事態が起こった場合にも「状況を見て考える」と、連携の強化に前向きな姿勢を見せる。県医務薬務課によると、このように医師の派遣や、柔軟な連携体制が可能な県内の病院は、現時点で大学病院だけだ。

 〇八年度からは県立病院の救急救命センターで医師派遣態勢の確立を予定しているが、産婦人科を含めた他の診療科で派遣は考えていないという。それだけに、今後県内の総合病院が分娩業務を停止した場合は「医師の派遣を大学にお願いするしかない」のが現実と言えそうだ。

人が集まる条件つくって

■見直し

 しかし、医師不足の影響を受けて派遣される医師の負担は、決して小さくない。それは大学病院も同じ。小辻教授は「われわれにも余裕はない。まず、大学に人が集まりやすい条件をつくってほしい」と訴える。

 出産に立ち会う医師や、産婦人科医を目指す学生の多くは「産婦人科の魅力は、人生の一大イベントであるお産の現場にかかわれること」と口をそろえる。その素晴らしい出産の危険因子を少しでも排除するため、大学病院の機能を見直し、行政と連携体制を取りながら、「お産の現場」を守ることが求められる。

  新医師臨床研修制度  新たに診療に従事しようとする全医師が2年以上の臨床研修を受けなければならないと定めた制度。研修先は個々の医師で決める。2年間の初期研修は必修で、研修医は短期間ずつ主な診療科を回る。2年目以降は専門領域を選択。各科で専門医となるまでの期間を後期研修と呼んでいる。



新医師臨床研修制度

 新たに診療に従事しようとする全医師が2年以上の臨床研修を受けなければならないと定めた制度。研修先は個々の医師で決める。2年間の初期研修は必修で、研修医は短期間ずつ主な診療科を回る。2年目以降は専門領域を選択。各科で専門医となるまでの期間を後期研修と呼んでいる。