◇インフラ整備急務
トヨタ自動車の子会社「セントラル自動車」(神奈川県相模原市)の本社と工場の県内移転が23日、正式に決まった。村井嘉浩知事は「東北の地域経済に大きな影響をもたらしてくれる」と喜び、「エンジン工場などが集積する可能性があり、数千億円規模の経済効果が見込める」と試算。経済界も「東北全体の経済、雇用状況にもプラスになる」と歓迎した。県は今後、受け入れ体制を整えるため港湾や道路などインフラ整備を急ぐことにしている。【山寺香、青木純、藤田祐子】
工場建設地は大衡村の第2仙台北部中核工業団地で2010年稼働予定。セ社の現従業員は約1230人で工場とともに県内に移住する計画。
村井嘉浩知事は、同日夕会見。企業訪問した職員の情報からセ社が工場移転先を探していることを知り、今年4月にセ社の石井完治社長、続いてトヨタ自動車の渡辺捷昭社長を自ら訪問し移転を働きかけていたことを明らかにした。
今後、庁内の企業誘致推進本部内に工業団地整備のためのプロジェクトチームを組織して受け入れ準備を進め、地元企業の技術力アップのための支援事業にも取り組む方針。「県内企業の取引拡大にも結びつくようにしたい」と話した。
移転が決定した大衡村は県内唯一の村で、人口約6000人。都市部回帰の流れなどで微減傾向が続いていたといい、村役場は「うれしい決定で精いっぱい対応したいが、詳しいことは何も分からない」と喜びと戸惑いを表した。伊藤俊幸同村企画商工課長は「住環境や教育環境など社員の福利厚生の面でも、できる限りのことを早急に検討したい」と話した。
また、梅原克彦仙台市長も「仙台市にも大きな経済効果が見込まれる。市ができる支援について積極的に対応したい」とのコメントを発表した。
経済界からも歓迎する声が相次いだ。仙台商工会議所の丸森仲吾会頭は「楽天が宮城にやってきた時以来のビッグニュース。東北の持っている技術力が評価されたと思う」と歓迎。東北経済連合会の幕田圭一会長は「誠に喜ばしい。産学官連携の下、新技術の開発などに取り組んでいきたい」とコメントした。
◇村井知事就任し、取り組み本格化
県の自動車産業集積への取り組みは、04年に県内の関連産業の実態調査などを行う「プロジェクトJ」が発足したのが始まり。05年秋、県内総生産10兆円達成を公約に掲げる村井知事が就任し取り組みが本格化した。
06年8月に企業立地推進本部を庁内に組織。企業訪問の目標を年間1200社に設定し、知事や副知事も出張の合間を縫ってトップセールスを行った。今年5月には東北6県の産学官が「とうほく自動車産業集積連携会議」も結成していた。
また、財政面では、9月議会で、企業誘致の財源とする目的で一定規模以上の企業に課税する「みやぎ発展税」が可決され、一方で、来年度から県内に工場を新・増設する企業への奨励金が現行の上限10億円から大幅に引き上げられることが決まった。立地企業の不動産取得税を2分の1免除するなどの優遇税制「企業立地促進税制」も導入予定で、企業誘致の呼び水となることが期待されている。
◇「技術力向上の余地も大きい」--東北経済産業局
東北経済産業局によると、自動車関連企業は2月現在、東北地方に約1000社立地し、県内では特に自動車用電子部品の生産が盛ん。だが、05年の東北の自動車分野製品出荷額は工業製品全体の約7%にとどまり、「中部地方などに比べ、技術力向上の余地も大きい」(同課)という。同局は東北で作られた部品だけで自動車を生産・海外輸出する体制づくりを目指し、人材育成や地元企業が自動車メーカーに技術をPRする機会づくりなどに力を入れる方針。
輸送のための交通インフラ整備も急務となりそうだ。東北地方整備局によると、工場予定地付近から仙台塩釜港までの所要時間は現在約1時間。仙台北部道路が全線開通し、仙台塩釜港近くのインターチェンジが完成すれば約25分に短縮されるという。同港についても、県は港湾の能力向上や利用促進を図るため計画改訂の作業中。セ社の進出に関連し、いずれも出来るだけ事業の早期進展を図る方針だ。
毎日新聞 2007年10月24日