自殺する前に、どうしてこれほど優しくなれるのか。今年7月、神戸市の私立高校で命を絶った3年の男子生徒(18)は両親あての遺書に「世界一の幸せ者でした」と感謝の言葉を残していた。
「お母さん お父さん こんなだめ息子でごめん 今までありがとう」。こう書き残して、福岡県筑前町の中学2年、森啓祐君=当時(13)=が自殺したのは昨年10月だった。11日で1年がたつ。
森君は先の遺書に「いじめられて、もういきていけない」と続けた。この1年で、いじめ問題に対する教育現場の理解はどこまで深まったのだろうか。
神戸市の自殺もいじめが原因とみられる。男子生徒は携帯電話のメールで再三、金を要求された。インターネットのホームページに下半身裸の写真を掲載された。いじめ、嫌がらせは昨年秋ごろから続いており、机の上やかばんの中に紙粘土を置かれたりもしたという。
粘土の嫌がらせは担任教師も気付いていたが、結果として事態を放置し、学校がいじめを認めたのは9月、同級生が恐喝未遂容疑で逮捕された後であった。
こうした現実を突き付けられると、残念ながら、いじめへの認識はいまだ不十分だ、と言わざるを得ない。
筑前町の事件は当初、学校や町教育委員会の事後対応が鈍く、いじめがあったことを容易には認めようとしなかったことに批判が集中した。元担任のいじめを誘発するような言動も明らかとなり、1教師の資質もやり玉に挙がった。
しかし、問題の本質は、森君が入学当初から受けていた長期間のいじめを学校がいじめとして気付いていなかったことだ。だから適切な対応も取れなかった。神戸市の場合も同様のようである。
思春期には家族ら身近な人に、いじめられていることをなかなか打ち明けないといわれる。誰かがどこかで「異変」を受け止めないと、いじめは解決しない。
インターネットや携帯メールによるいじめは近年、急速に広がっている。神戸市の事件もその1例と言えるであろう。関係者だけのやりとりであり、表面化しにくい。だが、すべてが見えないということはないはずだ。筑前町教委が設けた調査委員会は「いじめのような陰湿な行動は、見ようとして見なければ、見えない」と報告書で指摘している。
いじめ相談の充実も課題だ。文部科学省は今年2月、都道府県や政令市と協力し「24時間いじめ相談ダイヤル」を設置した。半年で4万7000件余りの相談があり、現場と連携して解決した事例も少なくないという。スクールカウンセラーの配置も、さらに進めたい。
何より、いじめを憎む心を子どもたちに育てなければならない。いじめるのはもちろん、見て見ぬふりの傍観者であってはいけない。他人の痛みに思いを寄せる。学校で、家庭で、あらためていじめ問題と向き合ってほしい。
=2007/10/09付 西日本新聞朝刊=
「お母さん お父さん こんなだめ息子でごめん 今までありがとう」。こう書き残して、福岡県筑前町の中学2年、森啓祐君=当時(13)=が自殺したのは昨年10月だった。11日で1年がたつ。
森君は先の遺書に「いじめられて、もういきていけない」と続けた。この1年で、いじめ問題に対する教育現場の理解はどこまで深まったのだろうか。
神戸市の自殺もいじめが原因とみられる。男子生徒は携帯電話のメールで再三、金を要求された。インターネットのホームページに下半身裸の写真を掲載された。いじめ、嫌がらせは昨年秋ごろから続いており、机の上やかばんの中に紙粘土を置かれたりもしたという。
粘土の嫌がらせは担任教師も気付いていたが、結果として事態を放置し、学校がいじめを認めたのは9月、同級生が恐喝未遂容疑で逮捕された後であった。
こうした現実を突き付けられると、残念ながら、いじめへの認識はいまだ不十分だ、と言わざるを得ない。
筑前町の事件は当初、学校や町教育委員会の事後対応が鈍く、いじめがあったことを容易には認めようとしなかったことに批判が集中した。元担任のいじめを誘発するような言動も明らかとなり、1教師の資質もやり玉に挙がった。
しかし、問題の本質は、森君が入学当初から受けていた長期間のいじめを学校がいじめとして気付いていなかったことだ。だから適切な対応も取れなかった。神戸市の場合も同様のようである。
思春期には家族ら身近な人に、いじめられていることをなかなか打ち明けないといわれる。誰かがどこかで「異変」を受け止めないと、いじめは解決しない。
インターネットや携帯メールによるいじめは近年、急速に広がっている。神戸市の事件もその1例と言えるであろう。関係者だけのやりとりであり、表面化しにくい。だが、すべてが見えないということはないはずだ。筑前町教委が設けた調査委員会は「いじめのような陰湿な行動は、見ようとして見なければ、見えない」と報告書で指摘している。
いじめ相談の充実も課題だ。文部科学省は今年2月、都道府県や政令市と協力し「24時間いじめ相談ダイヤル」を設置した。半年で4万7000件余りの相談があり、現場と連携して解決した事例も少なくないという。スクールカウンセラーの配置も、さらに進めたい。
何より、いじめを憎む心を子どもたちに育てなければならない。いじめるのはもちろん、見て見ぬふりの傍観者であってはいけない。他人の痛みに思いを寄せる。学校で、家庭で、あらためていじめ問題と向き合ってほしい。
=2007/10/09付 西日本新聞朝刊=