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筑前町いじめ自殺



 2006年10月11日、福岡県筑前町立三輪中2年の森啓祐君=当時(13)=が「いじめられて、いきていけない」との遺書を残して自殺した。1年生の時から同級生らに「死ね」とののしられ、自殺当日もいじめを受けていた。1年時の担任が母親からの相談内容を暴露し、いじめを誘発した可能性も発覚した。町教委の調査委員会はいじめが自殺の最大要因と結論づけた。1年時の担任と校長を県教委が懲戒処分とし、福岡法務局は反省を促す「説示」の措置をとった。県警は当時14歳の3人を暴力行為法違反容疑で書類送検。福岡家裁が少年審判を開き、不処分とした。

悲劇が伝えたもの 筑前町いじめ自殺1年<上>真相 いまだ見えぬ「なぜ」 親、生徒らに残る“影”―連載

2007年10月9日掲載)

 「いってらっしゃい。気をつけてね」

 刈り取り間近の稲穂が秋風に揺れる、福岡県筑前町。昨年10月にいじめを苦に自殺した三輪中学校2年の森啓祐君=当時(13)=の母美加さん(37)は毎朝、啓祐君の2人の弟を玄関先で見送る。時に路上に出ることも。今年4月、上の弟が同中に入学して以来の日課だ。

 あの日、台所で洗い物をしながら学校へ送り出した。「啓祐の顔をきちんと見なかった…」。後悔の念は強い。

 自殺の数日前。テレビが北海道滝川市の小学6年女児のいじめ自殺について報じていた。「啓君、こんな小さな子が亡くなっとるよ」「うん、かわいそうやね」。そんなやりとりも覚えている。

 あれから1年。美加さんの表情には少しずつだが、明るさが戻ってきた。息子2人を育てるため「悲しんでばかりはいられない」と言う。だが、睡眠導入剤がないと眠れない夜もある。啓祐君が最期を迎えた自宅倉庫には、今も入れない。

   ■   ■

 三輪中の正門前には毎朝、保護者数人が立つ。子どもたちを見守り、小さな変化もつかもうと1年前から続けている。ある男性は「だいぶ、あいさつを返してくれるようになった」と話す。

 同中によると、校内は平静さを取り戻しつつある。生徒へのアンケートや家庭向けの調査など、いじめの早期発見や防止にも取り組み始めた。

 だが、いじめ自殺は今も生徒たちの心に暗い影を落とす。「食事がのどを通らない」「気分が悪い」。1日に数人が保健室を訪れる。特に、啓祐君の件についての報道があった日は人数が増えるという。

 生徒による担任評価制も設けた。1年時の担任について町教委の調査委員会が「不適切な発言がからかいにつながる一要因となった」と報告書で指摘、教師の対応も厳しく問われたからだ。

 その担任は休職中。自宅に訪ねたが、自殺については口を開こうとしなかった。

   ■   ■

 両親はこれまで、「真相究明」を訴えてきた。報告書はいじめと自殺の因果関係を認めたが、断片的な事実しか明らかになっていないからだ。

 合谷智・前校長は啓祐君の月命日に自宅を訪れる。遺影の前で手を合わせるが、当時の状況に触れることはないという。権藤博文校長も「調査委の報告がすべて。真摯(しんし)に受け止めている。学校として真相解明に取り組むつもりはない」と話す。

 「啓祐はなぜ自殺にまで追い詰められたのか。真実を知るのに遅すぎることはない」。父順二さん(41)は、怒りともどかしさを押し隠しながら、声を絞り出した。

 8日、美加さんは福岡県小郡市のホールで壇上に立った。啓祐君の実名を公表した2月から毎月2、3回、全国各地で続ける講演活動。「啓祐の痛みに気づいてあげられなかった。どうすれば子どもが親に相談できる環境をつくれるか、いじめをなくせるのか。経験を話すことで、子どもや保護者と一緒に考えたい」と言う。

 「いじめは人の心と幸せを壊し、命を奪うことがあることを忘れないで」。美加さんはこの日も穏やかに語り掛けた。

   ◇   ◇

 あの悲劇から11日で1年。いじめ根絶への取り組みが各地で活発になる一方、子どもたちの自殺は後を絶たない。この間、何が変わったのか。「その後」を報告する。

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