インド洋での海上自衛隊の給油活動を継続するための新テロ対策特別措置法案は衆院本会議で政府側の趣旨説明と質疑が行われ、審議入りした。
福田康夫首相は本会議の答弁で「国際社会と連携してテロとの戦いに取り組むことが日本の国際的責務で国益にもなる」と述べ、早期成立に全力を挙げる考えを強調した。政府、与党は舞台を衆院特別委に移し、実質審議に入りたい考えのようだが、入り口に二つの壁が立ちはだかってしまった。海自の給油量訂正問題で隠ぺい疑惑が発覚したのと、守屋武昌前防衛事務次官の業者との癒着疑惑だ。二つの疑惑を解明しない限り前に進めない状況に追い込まれたといえよう。
防衛省が与野党に提出した報告書によると、海上幕僚監部の防衛課長が給油量の間違いに気付いたのは二〇〇三年五月九日だ。海自補給艦「ときわ」は〇三年二月、米補給艦に本当は八十万ガロン給油したのに二十万ガロンになっていた。しかし、防衛課長は上司に報告しなかった。まさに隠ぺいである。その理由は「燃料転用問題が沈静化しつつあった」と説明している。
しかし、当時、この時の燃料が対イラク作戦に参画した米空母キティーホークに渡りテロ対策特別措置法の目的外使用があったのではないかと問題視され始めていた。報告書がいう「沈静化」どころではなかったはずだ。実際、同じ九日には福田官房長官(当時)が記者会見で質問を受け、石破茂防衛庁長官(当時、現防衛相)も十五日に国会で追及され、結果として間違った答弁をした経緯がある。
なぜ、自衛隊の制服組は間違いが分かった段階で文官に報告しなかったのか。これでは国会、国民を必要情報の蚊帳の外に置いたに等しい。首相は答弁で「国民の信頼を損ねシビリアンコントロール(文民統制)の観点からも問題で遺憾だ」と陳謝した。衆院特別委では徹底した調査と再発防止のための対策を討議しなければなるまい。
守屋前次官が自衛隊員倫理規程で利害関係者とのゴルフなどを禁じた二〇〇〇年以降も、専門商社の元専務となお繰り返していた疑惑解明も重要だ。前次官には防衛省の次期輸送機のエンジン納入をめぐって在職中、部下に専門商社の元専務が独立して設立した新会社と「随意契約できないか」と口出しした疑いも持たれている。官業癒着の全体像を明らかにすべきだ。
与野党は、守屋前次官らの証人喚問などで疑惑究明を最優先して進め、国民が納得のいくよう対テロ新法の審議を深める必要があろう。
秋田県大館市の食肉加工製造会社「比内鶏(ひないどり)」が、地元特産の「比内地鶏」と偽って別の鶏肉を加工した商品を出荷していた問題で、県は二十三日に景品表示法や日本農林規格(JAS)法違反などの疑いで同社を立ち入り調査した。
調べでは同社は安く入手した「廃鶏」と呼ばれる産卵しにくくなった鶏を使って薫製やおでんなどを偽装し、不当に利益を得ていた。賞味期限の改ざんも行われていたという。県は二十日にも聞き取り調査したが、偽装の動機が不透明として再度調査に及んだ。全容の解明を求めたい。
それにしても、食品をめぐる偽装問題が後を絶たない。中でも三重県伊勢市の和菓子メーカー赤福による看板商品「赤福」の偽装は全国に知られる老舗だけに衝撃的だ。
当初、赤福側は売れ残った商品を冷凍保存し、必要に応じて解凍して出荷したとの説明だった。その後、一部は冷凍せずに保管して製造日を書き換え、包み直して再出荷していたことが発覚した。製造日や消費期限の後ろに記号を付けて内部で分かりやすいようにしていたというから悪質だ。さらには、あんともちに分けての再利用や、原料表示してない加工品を使用していたことも判明、県は無期限の営業禁止処分とした。
これまで、数多くの食品関連企業が不正で信頼を失墜した教訓がなぜ生かせないのか。謝罪する後から次々出てくる新たな不正に開いた口がふさがらない。
不正を重ねるうちに自分のところは大丈夫という考えや間違った会社への貢献意識が強まり、倫理観や使命感を薄れさせてしまうのか。しかし、不正はどこからか漏れる。消費者無視のつけは重いことを肝に銘じるべきだ。
(2007年10月24日掲載)