「偉大な音楽はどんな時代にでも生きていくと思います。 シューベルトが非常に偉大だというのは、 作曲した時代からこれだけ時間がたっても 現代性を失わないということだと思います。 普遍的な自分の思いが込められて、それがずっと今に至るまで伝わってきていると思うのですね。」

 コンサートは、多くの巨匠達が魅了されるシューベルトの大傑作のソナタで始まり、煌びやかな技巧を要するリストのメフィスト・ワルツで幕をおろします。
 2つの大曲の間には、シューベルトの「美しき水車屋の娘」と「白鳥の歌」から秀逸の歌曲をリストがピアノ編曲した作品と、ペトラルカのソネット104番が挟まれるといった美しい流れで構成されており、今年の4月にニューヨークのカーネギーホールで聴衆をすっかり魅了したプログラムと同じです。

きらめきのある音色で歌われるピアノ、そしてピアノ一台でフルオーケストラのような多彩な表情をみせるキーシン特有のピアニズムに期待は高鳴ります。先に共同インタビューを行いましたので、その模様からご紹介します。


Q:国際的にアクティブに活動されていますが、最近の活動で特に印象的なことを聞かせて頂ければと思います。

キーシン:ひとつひとつのコンサートが私にとって非常に大きなイベントですので、特に重要というのはありません。ひとつひとつを大切にしたいので、年間45回〜50回というコンサート回数に絞っているんですね。そのうちのひとつを印象深いというのは難しいです。
ここ4〜5年で特徴的な事といえば、室内楽プログラムをレパートリーに入れています。ヴェルビエ音楽祭(スイス)に毎年出演しています。4手の為のピアノ曲や2台ピアノの為の作品がレパートリーに増えました。マルタ・アルゲリッチやジェームズ・レヴァイン等と演奏しました。

Q:クラシカルな名作を、現代に生きる人間として表現されていますが、現代において物を表現することに関して、特に深く思われていることがありましたらお聞かせください。

キーシン:作曲家の意図することをなるべく汲み取って、それを真摯に表現したいと思っています。
      
Q:レパートリーを選ぶ場合、文学とかコンセプト的に結びついたものにご関心がおありですか? そうでなければ、どういう観点で選ばれるのですか?

キーシン:直接的には、文学作品を読んだ印象などを、演奏会のレパートリーに含めるという動機にはなりませんね。 やはりコンサートのオファーを具体的に頂いた時に、その時に自分が1番好きな曲は何かということを考えて、そして好きな曲の中から次の公演地、お客様のことを考えてレパートリーを選択していきます。

Q:シューベルトの最後のソナタに対するキーシンさんの思いは?

キーシン:このソナタはだいぶ以前からコンサートで演奏したいと思ってきた作品です。この作品を弾くことは決めていましたが、ひとつの同じコンサートの中で、この作品のマッチングとして、どの曲目が良いかということは、ずっと考えていました。

Q:マッチングとしてシューベルトとリストを一晩のコンサートにのせるという意図がありましたらお聞かせ下さい。

キーシン:ひとつにメフィスト・ワルツは非常にヴィルトゥオーゾ性を要求される華やかな曲で、一晩のコンサートに終幕にもってくるには相応しいと思います。 第一部でシューベルトのソナタを弾きますので、第二部の頭にある歌曲の編曲は、最後に演奏するリストの作品に繋ぐ中間の曲ということでちょうど良いと思いました。

Q:今現在、1番好きなをプログラムされたということですが、具体的にシューベルトのどんなところが好きでお選びになったのですか?


キーシン:やはり好きだから今回の公演のプログラムに入れたので、他に特に大きな理由はないのですが、このソナタはシューベルトのピアノ曲の中の最高峰だと思います。それは、みなさんどなたも同じような意見だと思うのですが、そういうことで自分としてはこの曲を是非コンサートで弾きたいとかねてから思っていました。 演奏会で聴いていただいて作品の感動を味わってほしいと思いますが、はじめの第1小節からコンサートの会場にいるのではなくて、どこか天の上に舞いあがっているような、そういう思いを私は感じています。みなさんにもそういうものを感じて頂ければと思います。そして、みなさまの中にきっとある、清らかなものが蘇ってくるようなそういう思いもあります。おそらくみなさんもこの曲をきけばそういう感じになるのではないかと期待しています。


Q:クラシカルな作品について、とても素晴らしい演奏を聴かせてくださいますが、現代作品について関心をもたれていればお聞かせください。

キーシン:クラシカルな作品を演奏するのに精一杯というのもありますし、クラシカルな作品のレヴェルを超えるような現代曲が今のところないというのがあります。 今、ヴィルトゥオージの関心を引くような、作品がまだ現われていません。そういうクラシックの作品を超えられる作品が現われにくい時代なのかどうかわかりませんが…。

Q:もし過去の大作曲家に自由に会うことができて、何か一曲書いてほしいというお願いができるとしたら、誰にどんな曲を書いてくださいと言いますか?

キーシン:充分な(数の)曲を書いていると思いますので、もう求めなくても良いと思います。逆に言うと、私が生きているうちにピアノ曲として書かれた曲の傑作の全部を弾き尽くしたいと思っています。私としては、今、現存するクラシックの曲を演奏し尽くすだけの時間があるかどうかと思っているのですね。むしろピアノ曲はいろんな方が書いているので、他の楽器の人にその権利を譲りたいと思います。
              
Q:カラヤンを始め、素晴らしい指揮者と共演されていますが、同時代の表現者として特に共感する方はいますか。

キーシン:感銘を受けた、特にシンパシーを感じた方々ですが、レヴァイン、バレンボイム、小澤、メータ…。(理由としては)ひとつは演奏して、心地良い満足感があったということです。音楽に対する解釈とか、感銘するところが共通するものがあったということですね。

Q:キーシンさんはロシア国外に住居を移されて長いですが、ロシア、もしくはロシア的なものにノスタルジーを感じることはありますか?

キーシン:国外にいるときはそれほど感じません。ノスタルジーを感じる暇がないのですが、ロシアに帰るとロシア的なものがなくなっているとか、昔のロシアに対するノスタルジーを感じます。特に外見的にはロシアはすごく変わりましたしね。

Q:ご自身にとって懐かしく思われるロシアのものというのはどんなものがあるのでしょうか。

キーシン:ロシアにいたころの友達や学校などをとても懐かしく思います。

Q:10日から日本ツァーが始まりますが、現在のフィーリングは如何ですか。

キーシン:いま良い演奏するために稽古に励んでいます。特に良い演奏をするための方法は、ただ練習するしかありませんので。

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