鳥飼行博研究室Torikai Lab Network
カミカゼ特攻機命中率56%の虚構 2006
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◆特攻機による戦果:カミカゼ特攻機命中率56%の虚報


写真(右):1945年9月3日 戦艦「ミズーリ」Missouri(BB-63)艦上のマッカーサー司令官とサザーランド中将が参謀総長梅津美治郎大将の降伏調印を見守る。:梅津美治郎(うめづよしじろう、1882年1月4日 - 1949年1月8日)は,二・二六事件後に陸軍次官として陸軍内を粛正。戦争末期には、全軍特攻化、本土決戦を策定。

「特攻機の命中率が56%」という新資料が米国で見つかった、と誤解を招く報道がされた。この虚報の真相は、米軍が戦場で視認した特攻機の来襲機数のうち、被害を与えた特攻機の機数である。

戦時中、米軍は特攻機出撃は把握していない。米軍は、来襲してきた特攻機を記録しただけで、至近距離に達した特攻機の成果は大きかった可能性を示す資料ではある。米軍の被害が大きいのは、船体に近距離に撃墜した特攻機が僅かに軽傷を与えてもすべて被害(命中)と過大報告したことによる。優勢な米軍は、損傷を受けたことを勇戦した証拠のように誇りにしていた。そこで、特攻機の効果を高めに見積もることは、米軍将兵にとっても、自らの勇気を誇示する目的が隠されている。

特攻の実態を覆い隠した「特攻機の命中率56%という米軍の新資料発見」との虚報は、当時の大本営発表のような報道姿勢であり、いかなる目的が隠されているのであろうか。特攻機の効果をことさらに誇張する喧伝は、特攻隊員たちの心情に反するのではないか。

Links
【アジア太平洋戦争インデックス】:日中戦争から沖縄戦まで
神風特別攻撃隊:1944年10月レイテ戦
USS GUEST DD472 OKINAWA CAMPAIGN
UNITED STATES STRATEGIC BOMBING SURVEY:SUMMARY REPORT
U.S. Naval Chronology Of W.W.II, 1945


<特攻に関する統計>
日本海軍の特攻機(1944年10月から沖縄戦まで) 1
特攻機と掩護機の数  

 

出撃数 2,314
帰還数 1,086
損失 1,228
 
米海軍艦艇の特攻による被害2

撃沈Sunk

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

損傷Damaged

 

艦種

隻数

艦種

隻数

護衛空母CVE

  3

正規空母CV

  16

駆逐艦DD

13

軽空母CVL

    3

護衛駆逐艦DE

  1

護衛空母CVE

  17

高速掃海艦DMS

  2

戦艦BB

  15

潜水艦母艦SC

  1

重巡洋艦CA

    5

掃海艇AM

  1

軽巡洋艦CL

  10

高速輸送艦APD

  3

駆逐艦DD

  87

戦車揚陸艦LST

  5

護衛駆逐艦DE

  24

海洋タグ船ATO

  1

潜水艦SS

    1

雑役艦Auxiliary 

  1

機雷敷設艇DM

  13

潜水母艦/魚雷艇PC/PT

  3

高速掃海艦DMS

  15

合計

34

魚雷艇母艦AGP/AGS

    3

 

 

 

 

病院船AH

    1

貨物輸送艦AK/AKA/AKN

    6

掃海艇AM

  10

タンカーAO

    2

輸送艦APA/APD/APH

  30

修理艦ARL

    2

艦隊タグ船ATF

    1

水上機母艦AV/AVP

    4

機雷敷設艦CM

    1

戦車揚陸艦LST

  11

潜水艦母艦PC/PT

    3

YDG/YMS

    7

合計

288

Kamikaze Damage to US and British Carriers by Tony DiGiulian (http://www.navweaps.com/index_tech/tech-042.htm)より作成。
注1. 日本陸軍航空隊の特攻機と掩護機を含まない。US Strategic Bombing Survey reporでは、 2,550機の特攻機・掩護機が出撃したと推計している。しかし、これには掩護機が含まれていないと思われる。約475機、すなわち18.6 percentが敵艦に命中したかあるいは至近距離に突入し被害を加えた。ただし、英国艦への突入も合算されているかどうかは明記されていない。含まれていないようだ。 
注2. 特攻とそれ以外の要因が複合した損傷も含むが、特攻でない損傷は含まない。USS Ticonderoga、USS Franklinはともに2機特攻され、USS Intrepidは5機の特攻を受けている。複数回数の命中しても1回と数えている。主な米海軍艦艇への延べ特攻命中機数は、正規空母 9機、軽空母 2機、護衛空母 16機、戦艦 15機に達する。
注3. 降伏時、日本軍は本土に 9,000機を保有し、これらは特攻に投入可能だった。5,000機以上が実際に特攻用に準備されていた。




『米国戦略爆撃報告 太平洋戦争方面の作戦』によれば、沖縄戦における米軍の艦船撃沈 は36隻、損傷368隻。航空機喪失合計は763機、内訳は戦闘による損失458機、作戦に伴う事故などの損失305機である。他方、日本軍の航空機喪失合計は 7,830機、内訳は戦闘による損失4,155機、作戦に伴う損失2,655機、地上撃破1,020機に及んでいる。
The Naval Technical Board

出撃した特攻機は、敵戦闘機に迎撃され,対空砲火に砲撃され、目標を冷静に選択する余裕はなかった。
正規空母を攻撃したかったが、そこまで辿り着くのは困難であるようだ。空母の位置も不明である。敵戦闘機も迎撃してくる。こうなれば、撃墜される前に、発見した敵艦艇に突入するのが、特攻で成果をあげる唯一の道のように思える。

特攻機の隊員は、本来は自らの命と引き換えで、敵正規空母を轟沈したかった。しかし、米海軍空母任務部隊は、中心に正規空母2隻,軽空母2隻を、その周囲を巡洋艦4隻、外側を駆逐艦16隻で護衛する輪陣形を組んでいる。したがって、中心部の空母に辿り着くまでには、熾烈な対空砲火をくぐらなくてはならない。
空母からは、F6F「ヘルキャット」、F4U「コルセア」など戦闘機がレーダー誘導されて、遥か100km手前から特攻機を迎撃してくる。また、任務部隊のさらに外側には、駆逐艦、護衛駆逐艦、掃海艦、敷設艦、揚陸艦が、レーダー・ピケ(警戒網)を張っている。米国のレーダーは、200km以上先の敵機(単機でも)捉えることができる。その、進行方向、高度も把握されている。つまり、特攻機が発見されることなく、空母に接近することは非常に困難である。

したがって、特攻機が撃沈した正規空母,軽空母は1隻もない。


特攻機が損傷させた米海軍空母(延べ隻数)は、正規空母16隻、軽空母3隻で、合計18隻で、損傷艦の7%に過ぎない。小型の護衛空母17隻を含めても、13%である。他方、空母を護衛する駆逐艦は87隻で31%、護衛駆逐艦も24隻、9%もある。機雷敷設艦、高速掃海艦はともに駆逐艦を改造したもので,駆逐艦同様、レーダー警戒網を形成していたから,空母の護衛艦艇とレーダー警戒艦艇が、特攻による被害艦艇の半数以上を占めていることになる。ただし、上陸部隊や艦艇への補給を任務とする輸送艦は、40隻、14%とあまり多くはない。本来は、警戒が手薄で、上陸部隊や艦艇の生命線ともいえる輸送艦・輸送船を目標にした攻撃が行われるべきであった。しかし、特攻隊員も。艦隊至上主義の影響を受けていたから、輸送艦のような目標は体当たりにふさわしいとは考えなかった。結局、通常攻撃によって、米輸送船団を攻撃することをしなかったのは、特攻隊を編成し、米軍艦艇に目を奪われた特攻作戦を展開した日本軍の失敗であったと考えられる。

特攻隊員とそれを送り出した指揮官たちの問題とも関連するが,日本軍は、攻撃目標の選定について、軍事科学的な検討を十分にせず、戦術的にも誤った「正規空母」という目標を第一優先した。これも、特攻作戦を失敗させる=特攻という大きな犠牲に見合った戦果をあげられなかった大きな要因であろう。