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現在位置:asahi.com>社説 社説2007年10月24日(水曜日)付 中国共産党―新指導部に寄せる大波中国共産党の党大会が終わり、胡錦濤総書記の2期目がスタートした。任期は2012年までの5年間である。 最高指導グループの政治局常務委員に、54歳の習近平・上海市書記と52歳の李克強・遼寧省書記を起用した。普通なら中央委員から政治局員を経て常務委員になるところを、ともに2段飛びでの抜擢(ばってき)だ。 李氏は胡氏と同じ共産主義青年団(共青団)出身で、後継者と目されてきた。太子党と呼ばれる有力者の二世グループ出身の習氏と競わせることで、胡体制2期目のエンジンにしようとの狙いだろう。この2人がポスト胡を争う軸になることは間違いない。 胡カラーでは側近の李克強氏のほか、共青団系から新たに3人を政治局員に起用した。同時に、何かとあつれきが伝えられる江沢民前総書記系も常務委員など重要ポストに残り、発言力を保った。 江氏の人脈は、政府から地方幹部まで幅広く連なっている。2期目の政策を進めるにあたって、今後も慎重な利害調整を求められることになりそうだ。 胡氏は人事で妥協したものの、党の憲法ともいえる党規約に自らが提唱する「持続可能な発展」戦略を盛り込んだ。この意味は小さくない。任期途中に自分の路線を書き込むのは異例のことだ。 トウ小平、江沢民時代から進めてきた経済発展最優先の路線を修正し、環境汚染や所得格差など発展の負の側面にも目を向けようという政策転換である。 ここで手を打たなければ、共産党による統治システム自体が揺らぎかねないと見てのことだろう。胡氏の強い危機感が表れている。 ただ、拡大する一方の格差を是正し、環境汚染や官僚の腐敗にストップをかけ、体制への信頼をつなぎとめるには、政治改革を避けて通れない。 共産党独裁という体制を維持しながら、国民の声を政策決定に反映させる道を広げていく。至難の業というよりないが、それ以外に胡氏の描く「持続的発展」を実現する方策はないことを覚悟すべきだろう。 来夏には北京五輪が迫っている。この一大国家事業を成功させることが新指導部の大きな使命の一つだ。それには対外関係を安定させることが欠かせない。国際社会での存在が大きくなるにつれ、それ自体が世界に脅威感をもたらす。不必要な懸念をぬぐうために、意識して国際社会との協調を目指す努力が必要だ。 ミャンマーなど強権的な政権との関係をはじめ、世界経済の歩調を乱さない発展、軍事の透明化、温暖化対策できちんとしたメッセージを発すべきだ。 何よりも、さらに国を開いていくことだろう。今回の人事では習、李両氏を筆頭に、改革開放の時代に育った若手が多く幹部に登用された。この世代に向けられた時代の要請は、より開放的で透明な中国へと歯車を回すことだ。 限界集落―消滅の危機を脱するには65歳以上のお年寄りが住民の半数を超える。そんな集落を「限界集落」と呼ぶ。高齢化が進み、日々の暮らしをおくることが限界にきている集落をいう。 多くは、川の上流の山間部にある。農林業の衰退とともに働く場がなくなり、お年寄りだけが残された。日々の買い物や通院の足に事欠く。田畑や山林の管理、冠婚葬祭もできにくくなる。その先に待っているのが「廃村」だ。 こうした集落が急速に増えている。 政府が過疎地域に指定した市町村を調べると、限界集落は7800を数えた。そのうち消滅の危機にさらされているのが2600。実際にこの7年ほどで200ほどの集落が消えたという。 何か打つ手はないものか。そう悩む自治体の間で注目されているのが、京都府綾部市がつくった「水源の里条例」だ。限界集落について、水と空気を生み出す水源の里と積極的にとらえ直し、支援する。全国で初めての条例である。 高齢者比率60%以上、20世帯未満、市役所から25キロ以上離れている、水源地域にある――。そうした条件で五つの集落を支援の対象に選んだ。 4000万円の予算を組み、5年の期限で、特産物の開発や空き家の活用による新住民の誘致などに助成する。 これまでの過疎対策と違うのは、自立への道を住民に考えてもらうことだ。 最初、住民は「何をしてくれるのか」と市に頼っていた。だが、市の担当者と話し合いを重ねるうち、ある集落は特産のトチの実をまぜる餅をもう一度つくりたいと提案した。 トチ餅は10年前までつくっていた。ところが、トチの実がシカに食われたため、餅づくりをあきらめていたのだ。 ボランティアの力を借り、トチの木の周りにシカよけのネットを張った。市は古い集会所を改装し、こうした食品を加工できる施設を造った。お年寄りによるトチ餅づくりがこの秋から復活した。 70年に過疎対策の法律ができてから、過疎地域で実施された事業は04年度までで76兆円にのぼる。 「限界集落」の言葉を生み出した長野大学の大野晃教授は、これまでの施策に批判的だ。「縦割りで下ろされた規格品(の対策)を押しつけても根づかない。その土地の特性や地元の主体性を踏まえてこそ有効な支援になる」と語る。 綾部市の条例では、水源の里に人が住むことで森林環境を守れるとして、その恩恵を受ける下流の人々との連携もめざしている。先日、綾部市で開かれた「全国水源の里シンポジウム」では、参加した自治体が情報交換し、対策をともに考える協議会を作ることが決まった。 人々がずっと暮らしてきた集落が消えていくのは、なんとも寂しい。人がいなくなれば、山野も荒れる。消滅の危機を乗り越え、豊かな自然の中で集落を再生させる道は何なのか。綾部の実験は、その大きなヒントになるはずだ。 PR情報 |
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