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2007年10月24日

◎能登ふるさと住宅 街並み景観再生にも支援を

 能登半島地震の被災者の住宅再建で、石川県は黒瓦や板張り外壁など、能登の伝統的な 住宅を基本にした「能登ふるさと住宅」のモデル案をまとめた。高齢者が多い被災者にとっては心安らぐ空間となり、素朴で落ち着いた奥能登の住宅景観の再生にも役立つ試みだが、個々の家屋の再建と合わせて、被害を受けた公共施設や商店街通りなど、景観形成に重要な役割を果たすエリアについても、伝統の街並み再生という視点で再建支援を考えてもらいたい。

 地震から半年以上が経過し、被災地では徐々に新しい住宅が建てられ、今後の着工計画 も進んでいる状況だが、高齢者だけで家を建てなければならないような場合、ふるさとに住みたいという思いは強くても、資金面や住みやすさの点がネックとなり、再建に踏み切れないケースも少なくないという。

 そうした事情を考慮したモデル案では、まちなか向けの「輪島型」と郊外集落型の「門 前型」の二タイプを用意した。来春をめどに仮設住宅近くの三カ所にモデル住宅を完成させ、各種支援により当座の自己負担は二百―三百万円程度の低コスト住宅を提案するという。

 奥能登の景観再生という視点を取り入れていることが大きな特徴であろうが、地震とい う災いを転じて、昔ながらの能登の風情を取り戻すという発想であれば、家屋だけでなく、被災した他の公共施設などの建て直しの際にも、景観再生の視点が必要だろう。

 こうした問題意識は地元側も共有しており、輪島市門前町の總持寺祖院に連なる総持寺 通り商店街のように、被災中小企業復興支援基金を活用して、建物の外観統一や、景観に合った街路灯の整備などに取りかかっているところもある。

 住宅以外で言えば、穴水町などでは図書館など教育関係を中心に、中心部の公共施設も かなり被災している。また輪島市の漆貯蔵庫など漆器産地ならではの建物も被害を受けた。こうした部分にも景観の再生、維持の発想をもって、県や市町が目配りしてもらいたい。一気に往時をよみがえらせるのは無理としても、わずかずつでも着実に進めていけば、将来的に能登の町の風格を整え、人を呼び込む投資になる。

◎自殺予防診療 加算で手厚くが望ましい

 厚生労働省は、自殺予防の観点から、かかりつけの内科医などの開業医が来院した患者 に「うつ病」の疑いを認めた場合、精神科の専門医の受診を勧めて紹介状を書けば、診療報酬で加算するなどの考えを中央社会保険医療協議会に提案し、来年度の診療報酬改定で実現する見通しになった。前向きの措置として評価したい。

 日本の自殺者は世界保健機関(WHO)によると、主要八カ国でロシアに次いで多く、 九年連続して毎年三万人を超えている。自殺は、「心の風邪」とも呼ばれるうつ病との関係が濃いとされている。このため、政府は自殺対策基本法に基づく「自殺総合対策大綱」を決定して診療報酬改定の面からも対策を考えてきた。それが実現するのである。

 子どもの自殺も増えている。警察庁によると、昨年一年間の学生・生徒の自殺は統計を 取り始めて以来、最悪となった。折から先日の小紙で、小学四年から中学一年の一般児童・生徒七百三十八人に、医師が面接して診断した北大チームの調査が報道された。それによると、うつ病と、そううつ病の有病率が合わせて4・2%と分かり、同チームの精神科医が「これほど高いとは驚きだ。これまで子どものうつ病は見過ごされてきたきたが、自殺との関係も深く、対策を真剣に考えていく必要がある」としている。

 こうした背景もあるため、厚労省は子どもの患者に対する精神科医の診療報酬も加算す る考えだ。保護者と子どもをそれぞれに面接することから、診療が長時間にわたることへの配慮である。併せて、救急病棟へ運ばれた自殺未遂の患者に対し、精神科医が専門的な治療を施した場合も加算対象とする。

 小泉政権時代に「改革なくして成長なし」のスローガンの下で、医療も改革の聖域では ないとして医療費抑制も推し進められた。医療費の増大を抑えるためだったが、抑制は「安かろう悪かろう」の医療になりかねない。

 一見、負担の軽い方が得なようにみえる。が、必要なことを省けば、重大な病気を見落 とし結局、患者個人はもとより社会全体の損失につながるとされている。自殺予防は手厚くするのが望ましいのだ。


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