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日本のアニメのよりよい未来のために:JAniCA(ジャニカ)日本アニメーター・演出協会、発足
2007/10/17

 10月13日土曜日、JAniCA(ジャニカ)日本アニメーター・演出協会の設立発表・記者会見が行われた。個々の企業に労働組合があるなかで新たに協会を設立した理由を、協会の代表でアニメーター、アニメ制作会社スタジオライブの社長である芦田豊雄は、アニメの質の向上という。芦田は、「白黒版の『鉄腕アトム』を見て衝撃を受けた我々の世代は、40年間ほとんど霧の晴れない状態を続けてきた」という。ほんの一時期、霧が晴れてユートピアを体験できたとしても。

 具体的には劣悪な労働環境という。この協会の対象となるスタッフはアニメーター、作画監督、演出家だが、平均の時給換算でそれぞれ540円(原画マン)、800円、600円となるらしい。

 ここで記者の独断でそれぞれの仕事の概略を説明する。

 アニメートとは画面のなかで動かしたいものを、一枚一枚動いているように見せる作業である。その作業の内容は原画と動画に分かれる。原画マンは動きのキーポイントとなる画を描いて、そのキーポイントにかかる時間を指定する。動画マンは原画マンの指示に従い、要求される枚数の動画を描く。

 具体的には野球のピッチャーの投げる動作の場合、原画マンは胸でグラブのなかにボールの握りをかくす画、振りかぶる画、投げる腕を後方にして今にも投げようとする画、投げ終わった画を描くだろう。動画マンはそれらの中間段階を、原画マンが指定した時間に合わせるように作画する。この動画を描く作業を業界用語で中割りと言うが、動画マンは普通、原画マンが描いた元の画も、画のタッチを合わせるために新たに起こす。

 作画監督とは簡単に言えば、それらアニメーターが描いてきた原動画をチェックするのが仕事である。アニメーター一人ひとり個性が違うので交通整理が必要であり、また出来が悪ければ描き直しの判断も担当する。

 演出家とはこの場合各話を担当するスタッフである。その仕事はほとんど監督と変わらず、そのためこの作業も監督が兼任する場合もままある。内容は監督の指示に従って脚本が脱稿して以降のすべての作業の面倒を見ることである。

 テレビ画面にどんな映像をどういう並びで何秒間表示させるのか、その指示書である絵コンテの執筆はもちろん、それらのカット毎の意味を原画マンに理解させること、必要となる背景美術の注文、どんな音が必要となるか、等々。

 つまり映画であればアニメに限らずすべて監督の仕事ではあるが、演出という役職が別に必要となるのは、ひとえに30分のテレビアニメ、1本分にかかる期間の問題である。実は最初にあげたモノクロ版の「アトム」でさえ1ヶ月かかることから5班体制で1週間ずつずらして制作していたのだが、カラーになって作業が重くなった現在では2ヶ月が平均。つまり演出家は週1回のテレビアニメ30分の時間枠を、2ヶ月付きっきりで制作するのである。

 アニメーターは原画マンの場合、月60カットも描ければいいと言うのが、芦田の見方である。記者の私見で言えば、作画監督が一番融通が利く部署か。しかし荒い作画のまま放送させた結果は隠しようもないし、良いアニメを作ろうと思えば、そんな仕事をしたスタッフに声がかかるとは考えられず。だから作画監督が良い原動画を納品しようと思うなら優秀なアニメーターを揃えるか、信頼できる作画監督をほかに何人も付ける必要があるのである。以上で記者による注釈を終える。

 以上の情報を踏まえた上で、芦田が例えをあげてアニメ制作会社の実態を報告する。制作会社といっても作画を請け負うスタジオであって、社長を入れて10人の構成である。以下原画マン4人、動画マンが5人。月給を見ていくと社長が50万、原画マンが30万と20万が2人ずつ、動画マンが10万が3人で6万が2人。

 問題は労働時間で、全員が13時間労働で28日勤務で計算する。実際に記者が計算すると、社長で時給1376円、以下同じく原画マンについて30万が824円、20万が549円となる。

 なぜこうした長時間労働が強いられるかを記者が説明すると、ひとえに技術の高度さによる。アニメートとは精確なデッサンはもとより、人間を劇空間の中で動いているように見せる空間把握能力、そして確かな演技力をも定着させなければならない作業である。この高度さを想像できれば、記者は50万でも安いと感じる。なおこのことは業界では周知の事実のため、訊く方も説明を求めなかった。

 ではなぜ低賃金で重労働の悪癖が今日までまかり通ってきたのか。芦田はそれを芸人根性であるという。しかし「アニメータは芸人だから低賃金でも構わない」という考え方は間違っているとも。なぜなら売れない芸人は仕事がない芸人であり、アニメーターは忙しく仕事をしても低賃金に置かれている情況であるからと。

 それでも数は少ないながらいま入ってくる若者は、この泥沼で曇り空の状況を分かった上でなので、彼らのためにも捨て石になろうというのが、芦田のこの協会の設立趣旨である。しかし疑問に思うのは既存の労働組合との共闘、あるいはそもそもなぜ労組の中でなく新たに協会を設立したのかの意味である。

 1つ目の疑問に芦田はケースバイケースと言った。そもそも「4500人いると言われるアニメーターの2000人でも、あるいは1000人だけしか加入しなくても構わない」と。加入するには芦田は意志を要求すると発言した。その意志とはアニメと自分の質の向上という。だから既存の企業労働組合とは違うというのが、2つ目の疑問に対する答えという。

 質の向上のため保険の問題にも言及があった。東京大学大学院・新領域創成科学研究科教授である浜野保樹によれば、アニメーターは国民健康保険か社会保険しか知らない状況だという。しかし米国のアニメーター協会の会員でもある浜野は米国とヨーロッパ、特にフランスの行きすぎた保険制度にもふれ、欧米の制度が万能でないことにも言及した。

 しかし一番の問題は、発足したこの協会には金がないことだと、芦田は言う。今回のこの発表会と記者会見も発起人有志の自腹であり、そのため国などからの助成や企業からの寄付を、芦田はお願いした。特に政府に於いては国際競争力がある分野としてアニメや音楽、食文化などをあげて、筆頭に挙げたことがある。だからここまで言及した労働環境の劣悪さを政府も充分認識しているので、公的な助成は財政難のなか望めないとしてもこの状況を周知してほしいと芦田は要求した。

 ほかに海外の状況を参考にした各種のプロジェクトのヴィジョンを語ったが、現状では夢の話と記者は捉えたので、今回のレポートでは割愛する。何よりも「1年後も活動していることが目標」という芦田の言葉は重い。それでも「40年間開かれなかった扉が開いたのだから応援してほしい」と。記者も応援団となるつもりである。

参考
日本アニメーター・演出協会 JAniCA
第165回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説

(おおしおたかし)

     ◇

おもな関連記事:アニメ製作現場の過酷な労働環境



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[30548] ジブリの問題
名前:おおしおたかし
日時:2007/10/18 11:52

前略 ゴンゾはともかくスタジオジブリについては、テレビシリーズに参加してくれと言う声を関係者から聞いたことがあります。そもそもジブリは既存のスタジオに嫌気がさして宮崎、高畑、鈴木の三氏が作りたいものを作るという意志のもと立ち上げたスタジオです。しかしそれで映画でしか宮崎と高畑の名を拝めなくなったのです。

 その弊害はジブリがどんなに世界に認められた映画を製作しようと、アニメ界全体に恩恵がなかった点に気づけば明らかと思います。つまりこの会社の製作体制、商品展開、配給力はジブリだからであり、テレビシリーズ中心の殆どのアニメスタジオが参考に出来るものではないのです。

 しかし宮崎、高畑の参加は無理としても制作スタジオのジブリがテレビシリーズに参加すれば。スポンサーやテレビ局、広告代理店さえ睨みを利かすことが出来るので、万全の制作体制を組むことが出来るでしょう。そうしたら他のスタジオも引っ張られるように、アニメーターなどの待遇改善が図られるはずです。

 しかし聞くところに依ると鈴木はスタジオジブリを、宮崎/高畑の個人スタジオと認識しているようで。つまり二人のどちらか(あるいはどちらも?)が他界したら解散すると。
                     草々

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[30544] アニメータの悲哀
名前:ちぐさや
日時:2007/10/18 06:31

最近のワーキングプアが問題となっていますが、
日本が国策と考えるアニメの世界も同じ問題を抱えているようですね。
ボランタリーに就労支援をすることとはまったく別である
この問題は好きな仕事に就いて「ワーキング」しているにも拘らず、
労働対価として「報われない」ことです。
時給300円で交通費なし、では普通の生活なんてままなりません。
この問題を解決するのは難しいですが、3つの異なる方法があると考えます。
1つ目は、資本主義経済に則って、アニメの価値をどんどん創造していくこと
2つ目は、社会主義的に国の補助金や互助会制度を用いて底上げをすること
3つ目は、労働集約的なこの作業にコンピュータを活用して生産性を高める
です。今回の設立の趣旨は2番目にあるようですが、これら3つは
共存できますので、1番目も3番目も積極的に進めていかない限り、
将来性はないと断言できます。

見習うべきは、ディズニー、ドリームワークス、ジブリ、ゴンゾーでしょうか、、、

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