◆腰痛原因の代表的疾患、症状和らげる治療法とは。
◇腰回りの筋肉鍛えて--トレーニング法、いつでも気軽に
背骨の骨と骨の間にある椎間板(ついかんばん)が外に飛び出して神経を圧迫し、腰や足に痛みやしびれを引き起こす椎間板ヘルニア。悩める人の多い腰痛の原因となる代表的な疾患の一つだ。ここ数年、レーザーを使って椎間板を焼いて小さくする治療が注目されているが、基本的には保存療法で治す病気といえる。筋肉を鍛えることで症状を和らげる治療に取り組む近畿大医学部整形外科学教授の浜西千秋さん(61)に聞いた。
「ヘルニアの痛みは、背骨を取り巻く筋肉が弱いために起こる急性炎症が原因」と浜西さんは説明する。
人間の背骨は24個の骨が重なってできている。骨と骨の間でクッションの役割を果たすのが椎間板で、柔らかいゼリー状の「髄核」を線維輪という組織が取り囲む構造をしている。線維輪は20歳を過ぎると老化が始まり、裂け目が入るようになる。この裂け目から髄核が飛び出した状態になるのが椎間板ヘルニアだ。20~40歳代で多く発症する。50~60歳を過ぎると、髄核から水分が失われて変性しスカスカの状態になるため、ヘルニアは起こりにくくなる。
診断にはMRI(磁気共鳴画像化装置)検査が有効だ。背骨から飛び出している椎間板を画像で確認できる。ただ、浜西さんは「MRIでヘルニアが確認されても、痛みの症状をみんなが起こしているわけではない。炎症を起こしていなければ痛みは起きない」と強調する。炎症を起こすかどうかの分かれ目になるポイントは、腰回りの筋肉の強度にあるという。
専門的になるが、腰回りでは内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋、大腰筋、腹直筋といった筋肉が組み合わさって、背骨や、背骨と骨盤をつなぐ仙腸関節を安定させている。これらの筋肉は、コルセットのような役割をしていることから、浜西さんは「コルセット筋」と呼ぶ。
「コルセット筋が弱いと、背骨が固定されないので、ヘルニアの部分がガタガタと動いて炎症が起こりやすい。逆に言えば、筋肉が鍛えられていれば炎症を起こさずに済むのです」と浜西さん。ヘルニアであるかどうかよりも、ヘルニアの起きている背骨を支えるのに十分な筋力があるかどうかが問題だというのだ。
*
「少し体を後ろに倒して。じゃあ、ゆっくりと体を起こしていらっしゃい」。近大病院(大阪狭山市)の診察室。浜西さんは、初めて診察に訪れた女性患者の胸に手持ち式の筋力測定器を当て、力をかけた。結果は60ニュートン(10ニュートンは約1キログラム重に相当)で、「女性の平均は80ニュートンくらいですから、少し低いですね。やはりコルセット筋を鍛えてもらう必要があります」と指摘した。
トレーニング法は簡単だ。椅子に浅く腰掛けて背筋を伸ばし、背もたれに触れる少し手前まで背中を倒して、しばらく我慢しては戻す。これを繰り返す。我慢した状態で両足を上げるのも効果的で、「背中から腰を1本の棒のようにイメージしながら動かす」のがコツだという。野菜を育てるのが趣味という浜西さん自身が、農作業で腰を痛めやすいため、「いつでも気軽にできるトレーニング法はないだろうか」と考え出した方法だという。【野田武】
◆治療の進め方は
◇保存療法が基本…鎮痛剤、腰椎牽引も
椎間板ヘルニアを治療する場合には、どのように進められるのか。矢倉整形外科クリニック(大阪府岸和田市)院長の矢倉久義さん(55)は「画像診断でヘルニアが確認されて痛みの症状があれば、まずは炎症を抑える鎮痛剤を処方し、腰椎牽引(ようついけんいん)を行って様子を見る」と説明。「痛みがひどい場合は牽引で症状を悪化させる恐れもあり、安静を保って薬で痛みが引くのを待ってから牽引を行うべきだ」という。
改善しない場合については、レーザー治療や、神経を圧迫しているヘルニアを摘出する手術が考えられるが、矢倉さんは「保存療法で改善が見られない場合にのみ適応となる」と話す。
毎日新聞 2007年10月23日 東京朝刊