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2007-04-12 ノウハウ直接知財 与太理論の流通 その1

[][]ノウハウ直接知財 与太理論の流通 その1

このシリーズの内容の半分は愚痴である。

世の中にはうんざりするほどガセネタが流通している。これらのガセネタのうちのいくつかは発信者の能力不足によって運悪くガセネタしか作成できなかったというものだ。例えば19世紀の大科学者であるニュートンニュートン力学というガセネタを発信している。現在の科学ではニュートン力学は近似的に正しいだけで、厳密にみると間違いであることが証明されている。しかし僕はニュートンはそれでも偉い人物だと思っている。彼は彼の能力の範囲で科学に対して誠実だったからだ。彼にニュートン力学を超えて相対性理論を発信するべきだったということは、言葉の上では可能だが実際には明らかに不可能だった。

しかし世の中には科学に対して不誠実な人々がうんざりするほど多い。高校生レベルの知識があれば明らかに嘘だと分かる言説を大の大人が大真面目な顔で唱えているのだ。そしてそれを指摘されても一向に自説を曲げようとしない。「もしかして本気で言ってるのですか?」と聞きたくなるくらいだ。

いくつか例を挙げよう。

水からの伝言

飽和水蒸気から雪の結晶を作る実験で「ありがとう」などのいい言葉をかけてやった場合はきれいな結晶ができて、悪い言葉をかけた場合は汚い結晶ができるという話。

どう見ても、いい言葉をかけたときにはできた結晶の中からきれいな結晶を探して、悪い言葉をかけたときには汚い結晶を探してサンプルにしたとしか思えない。水が人間の言葉を聞き分けたのではなく、人間が人間の言葉を聞き分けただけだ。

問題は小学校の先生が道徳の時間か何かにこの話を児童にしたということだ。小学校の先生は大卒のはずなのだが。子供がこの話を信じてしまったらどうするのだろう。

反戦軍事学

反戦を実現させるためには軍事の知識が必要です」と銘打ちながら、まったく頓珍漢な自衛隊批判をしている本。「日本に徴兵制が導入されるかもしれない」とあおっているが、現代の軍隊では徴兵制を導入したら軍隊が弱体化することは軍事学での常識である。この本の読者は北の将軍様におもねることが戦争回避に繋がると思っているのだろうが、好戦的な独裁者に宥和的な政策をとったために第二次世界大戦が発生したことは歴史の常識だ。

インテリジェントデザイン

神様ないしなんらかの知性が生物の突然変異をコントロールしているという説。ダーウィン進化論では説明がつかない進化の跳躍があり、それは神様がコントロールした証拠だとのこと。普通に考えればその跳躍部分を埋める生物が発見されていないだけで、しかもダーウィン進化論で説明できる進化がほとんどだということも無視している。

もしかしたら何らかの知性が関与していたのかもしれない。実際に遺伝子組み換え作物などは人間という知性が進化に関与している。しかしこの知性の存在証明を行うべきはインテリジェントデザイン派であり、ダーウィン派がそれの非存在証明をする責任はない。

イスラム原理主義者ですらこんなにひどい与太話をしたりはしない。それなのに学校で子供に教えるべきだと主張する人が結構な人数にのぼるらしい。もちろんスパゲッティモンスターはこれのパロディーである。

もっと頭を使え

ある体育会系企業での実話。

上司曰く「もっと頭を使って営業しろ。俺の若いころは休みの日に客の家を訪問したり、用事がなくても客の会社に毎日顔を出したり、頭を使って仕事をしていたんだ!」


数え上げるときりがない。

この手の与太理論に出会うたびに思うのがやっぱり「もしかして本気で言ってるのか?」だ。全部が全部、本気で言っている人間ばかりではないと思うが、どうやら本気で言っている人間も存在するようだ。彼らはその本気度合いから三種類に分類される。


1.完全に本気で信じている

ニュートンだって本気でニュートン力学を信じていた。本気で信じているからといって彼らの言っていることが真実に変わるわけではないが、誠実さは認めてもいいと思う。その誠実さがあれば、彼らに間違いを指摘したときに理解してもらえ、彼ら自身が間違った理論を引っ込めてくれる可能性があるからだ。

しかし説得に当たっては説得者・被説得者の双方の知的能力が要求される。もしもニュートン相対性理論が発表されるまで長生きしていたら彼はニュートン力学の非を認めただろう。しかしアインシュタインは「神はサイコロをふらない」と言って最後まで量子論に納得しなかった。これに関してはアインシュタインが頑固だったと言うよりも、その頑固さを打ち砕けるほどに量子論が完成されていなかったせいだと言うべきだろう。そして彼らほど偉人でない与太理論製作者は誠実さは持っていたとしても、納得力が低い*1ためになかなか真実には説得されない傾向にある。ただし被説得者の知的能力が十分に高い場合は、わざわざ誰かが説得しなくても本人が自発的に改心する可能性がある。


2.うすうすおかしいと感じている

おかしいと感じているが、与太理論を信じなければやっていけないとも感じている。自分の思想信条や利益のためには与太理論が真実であるほうが都合がいい人々である。この手の人間が一番厄介である。

左翼にかぶれた人が「アメリカの核兵器は悪魔の武器で、ソ連・中国の核兵器は正義の武器である*2」と言ったり、ストーカーが「あの娘は照れ屋だから俺への愛に素直になれないんだ」と言ったりする。彼らは自分の与太理論が真実でないと薄々は分かっているのだが、それを指摘されると猛烈に反発する。そして場合によっては暴力に訴えることも辞さない。

これらの人々を改心させるには大きな労力というコストと説得者の身の危険というリスクを負わなければならない。そしてよほどの幸運がなければ本人が自発的に改心することはない。


3.おかしいことを言ってると自覚している

おかしいことを言っていると自覚しているが、自分の利益のためにその理論を主張する人がいる。詐欺師などはその典型だが、公務員にも多く見られる。そして民間企業でも同じようにいい加減な言い訳をして仕事をごまかす人間がいる。

2と同じく改心させるのは難しいが、2ほどの危険人物ではない。なぜならばこの与太理論発信者は自分が与太理論を語ることの得失を計算しているからだ。2の人物はこの得失が計算できないために説得者に危害を加える、つまりは犯罪を犯し、その犯罪によって罰せられる損失をも辞さない。しかし3は得失が合わなければ説得者に危害を加えない。つまり暴発の危険がないのだ。

もちろん暴発の危険がないとは言っても、得失が合えば犯罪を辞さないだろう。ヤクザなどはその典型だが、自分の与太理論を貫き通して利益を得るためには、説得者に危害を加えることに躊躇しないだろう。しかし説得者はどこで被説得者が爆発(暴発にあらず)するかを予期できるために、その爆発を回避することができる。

得失を理解していると言うことは逆に見れば、その得失が合わないと感じれば彼らは自説をいともたやすく撤回するだろう。彼らを説得するのに必要なものは説得力ではなく、取引なのだ。

*1:もっとも与太理論に関してはなぜか納得力が高い

*2北朝鮮の核兵器にも一理あるらしい

nobok nobok 『池田vsNATROM論争(もどき)からココに来て、過去記事が目に止まりました。
ニュートン力学を「与太」呼ばわりするのは、物理学を学んだものには許容できない表現です。物理学の理論、法則は、すべて検証可能な適用範囲とともに立てられています。ニュートン力学がマクロな非相対論的物体に対して検証されたものであり、それを「与太」とはいいません。ニュートン力学が検証されていないミクロな領域を記述するのが量子論ですが、これはマクロの極限でニュートン力学に一致しますし、相対論も極限でニュートン力学に一致します。
 「適用範囲」「適用対象」を予め定義せずに理論を唱えるのは無意味というのが近代物理学の基本的な態度です。適用範囲外で成り立たないことを、その理論が間違っているとは言いません。
 社会科学の理論は、適用範囲・対象を検証範囲・対象とすると、単なる経験論になってしまい、有用性がなくなってしまうので、わざとあいまいにしているのでしょうか?
とにかく、ニュートン力学を「与太理論」の例にするのは、まったく見当外れで誤解を招くだけ、議論の信頼性を下げるものであることをご理解ください。NATROM氏の「言い分が正しそうなのか判別する簡易的な手段として、自分がよく知っている分野についての発言を調べてみる」ということを適用すると、ニュートン力学を与太呼ばわりする時点で、私にとってこの議論はアウトです。』 (2007/04/30 18:34)

shinpei02 shinpei02 『ニュートン力学を引き合いに出しているのは、あれほど完璧に見える理論ですら完璧ではないという例です。実際に人工衛星の内部の時間は地球上の時間とずれていて、それが現代の科学で検証可能ですよね。この時間のずれを放置しているとGPSはうまく作動しません。今の科学技術では検証不可能ですけど火星も木星も微妙に時間がずれているはずです。極限の状態なら一致するかもしれません(これに関しては知識が足りないので自信なし)が、我々の住む地球も太陽系も銀河系も有限の空間です。
実際問題は身の回りのほとんどすべてのことがニュートン力学で事足りますし、これからもニュートン力学が近似値を求めるのに一番適しているという理由で学ばれ続けるでしょう。同時にニュートン力学は完璧ではないということも教えられ続けるでしょう。

ここから自信なしモード
ニュートン力学の「適用範囲」「適用対象」がニュートン自身の定めたものと、現代の物理学者が定めたものが一致しているのでしょうか。もしこれが一致しているなら(そしてその範囲に僕が納得いくなら)このニュートン力学のくだりを全面改訂することにやぶさかではありません。
しかしニュートン自身が定めたものと現代物理学者が定めているものが一致しないのであれば、それは「ニュートン力学改訂版」とでも呼ぶべきもので、ニュートン自身はガセネタを発信したことになります。この場合は僕は「ニュートン力学」を「古典ニュートン力学」と書き直さなければならなくなります。
このあたりを分かりやすく(高校物理履修者向け)説明している書籍があれば紹介していただけるとありがたいです。』 (2007/04/30 21:10)

nobok nobok 『最初の2段落には反論はありません。この範囲のことを書いていらっしゃるのであれば、私もコメントしなかったでしょう。しかし、「自信なしモード」に書かれていることは、まったくいただけません。
自然科学の態度からは、ニュートン自身が適用範囲をどう定めたのかということは、全く問題になりません。現在の物理学の体系においてどう位置づけられ、どのような条件でどの精度まで検証されているかだけが問題です。
NATROM対池田論争でも違和感を感じていたのですが、どちらも、ドーキンスだのハミルトンだの名前を権威として援用することによって議論を裏付けているつもりになっているようですが、私のセンスなら、誰の理論だから、というのではなくて、このような実験とか観察で実証されているから、というのが議論の補強になると思うのだけど、見事に二人ともそうはしていない。shinpei02さんが、「ニュートン自身」を持ち出したところで、あ、これは同じ態度だな、と感じました。哲学とか社会科学の議論の手法なのでしょうが、自然科学の方法論とはまったく違います。そのような枠組みで、ニュートン力学を批判するのは、全くナンセンスです。
 適用範囲に対して適切な精度で予言能力のある理論は、決して、「ガセ」とか「与太」ではありません。理論に適用限界がある、ということと、その理論が間違っている、ということは全く異なる定言です。
 論理が』 (2007/05/03 00:38)

shinpei02 shinpei02 『おそくなりましたが、nobokさんへの反論も含めて科学的態度(科学哲学と言うべきか?)をこちらに書きました。3回くらいに分けて書く予定です。
http://d.hatena.ne.jp/shinpei02/20070512/1178975410』 (2007/05/12 22:13)

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