終戦前後に旧日本軍が中国で遺棄した毒ガス兵器の処理事業をめぐり、受注した大手建設コンサルタント会社とグループ企業で不正な会計処理が行われ、約一億円が流用された疑いがあるとして、東京地検特捜部が特別背任容疑で強制捜査に乗り出した。
問題になったのは「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)で、同社とグループ企業の「遺棄化学兵器処理機構」「パシフィックプログラムマネージメント」(PPM)などが家宅捜索を受けた。
機構が二〇〇四年度以降、内閣府から受注した毒ガス兵器処理関係の事業の一部をPCIに委託し、PCIはPPMに再委託、PPMはさらに複数の企業へ下請けに出した。この過程で、事業費約一億円の使途が不明になっている。特捜部は押収した資料の分析や関係者の事情聴取を進め、資金の流れなど疑惑の全容解明を目指すという。
旧日本軍は致死性のイペリットなど毒ガス兵器三十万―四十万発を吉林省内に集中して埋めたといわれる。危険性から日中両政府間で処理に向けた交渉が始まり、一九九七年に発効した化学兵器禁止条約によって日本に廃棄処理が義務付けられた。当初、今春までに完了の予定だったが、作業の遅れから期間が五年間延長されている。
日中両国は、戦争の時代を経て戦後も長く交流の空白期間が続き、七二年の日中共同声明でようやく国交が正常化した。今年で三十五周年を迎え、経済的結びつきは年を追って強まっている。二〇〇六年度の中国との貿易額は二十五兆円を超え、日本の最大の貿易相手国である。
毒ガスなどの遺棄化学兵器は、そうした両国が抱える負の遺産といえる。これを日本の責任で処理することは中国国民のわだかまりを解くことに役立ち、両国の一層の関係発展につながろう。
それだけ重要な案件である遺棄化学兵器の処理事業で不正があったとすれば、両国国民の信頼関係、絆(きずな)を損なう行為といえる。決して許すことはできない。日中両国の将来のためにも事件の徹底的な解明が求められる。
PCIに関しては契約額の水増しなど政府開発援助(ODA)に絡む不正請求が多数発覚している。会計検査院によれば、会計不正は〇四年度までの五年間で十一カ国三十件以上に及ぶ。それなのに内閣府は入札でなく随意契約で機構に業務委託していた。事業の特殊性が理由というが、すんなり納得できない。特捜部は周辺事情を含めて幅広く調べる必要があろう。
自殺誘引や共犯者募集など有害サイトをきっかけとした犯罪の増加を受け、警察庁がインターネット上の違法・有害情報を監視する「サイバーパトロール」を民間に委託し、強化する方針を決めた。
サイバーパトロールは現在各都道府県警が実施しているが、専従の捜査員が不足している。そこで民間企業や団体に委託しようというわけだ。警察も従来通りパトロールする。委託は来年十月から始める予定で、警察庁は有害サイトへの接続を遮断するソフトのメーカーなどが持つノウハウに期待している。
ネット上の違法・有害情報は野放しにできない状況になっている。今月、自殺サイトを開設した男が、依頼に応じて川崎市の女性を殺害したとして逮捕された。八月には携帯電話サイト「闇の職業安定所」で知り合った男三人が名古屋市の女性を拉致殺害する事件が起きている。
ネットオークションでの出品偽装詐欺や出会い系サイトを介した児童買春事件も後を絶たず、わいせつ画像や規制薬物の売買情報など掲載すること自体が違法な情報もネットにあふれている。
新たな法規制は表現の自由に絡み、ネット監視は現実的な策といえる。ネット接続業者の団体が一昨年、自殺を予告した人の情報を警察に伝えるガイドラインをまとめた。全国の警察はこうした情報を基に昨年、四十三人の自殺を防いだという。
今回の事業で委託を受けた先が集めた違法な情報は必要に応じて警察が捜査し、有害情報は管理者に削除を求めていく。ネットには日々新たなサイトが開かれ、書き込みが行われる。作業は膨大だが、官民の連携で粘り強く点検していってもらいたい。
(2007年10月22日掲載)