日ごろの政治的な立場を超えて、抗議の声が広がった。それだけ問題の深刻さを示している。米海兵隊岩国基地(岩国市)の隊員四人が広島市内で、あろうことか、女性を暴行した容疑が強まり、広島県警などが週明けにも逮捕状を請求する。事実とすればまず、人間として許し難い蛮行である。
岩国の米兵は広島の歓楽街で騒いだり、物を壊すなどの粗暴な振る舞いがあり、住民から苦情が出ることもあったと聞く。しかし、今回の集団女性暴行事件は単なる行き過ぎでは済まされない。
捜査当局は早急に容疑者の身柄を拘束し、厳正な取り調べで追及すべきである。基地側には被害者に深く謝罪し償うとともに、組織を挙げて事件の再発防止に全力を尽くすよう求める。
米兵による日本国内での女性暴行事件が後を絶たない。基地周辺をはじめ、地域住民はそのたびに不安をかき立てられる。国民の自尊心も深く傷つけられる。戦後六十年以上にわたり、米軍基地の存在を受け入れてきただけに、屈辱感はなおさらだ。
まして、在日米軍の再編計画が具体化している段階である。空母艦載機の岩国基地への移転をめぐり岩国市民には反対の意向が根強い。事件は市民感情にも複雑な波紋を広げていよう。
移転に反対する団体などが事件に対する怒りの声を上げたばかりではない。移転を容認する隣接の大竹市長や、岩国市に譲歩を求めている山口県知事らを含め「あってはならないこと」などと遺憾の意を表明している。基地側は重く受けとめる必要があろう。
他国に駐留する軍隊として綱紀粛正は徹底しているのか。岩国基地では最近、地元との確認事項に反して、事前通知なしの深夜の訓練や低空飛行が相次いだばかり。加えて、今回の事件である。
懸案を抱えている時期こそ、地元への慎重な配慮が欠かせないはずなのに、これでは「おごり」と批判されても仕方あるまい。目に見える形で姿勢を改めてほしい。
それにしても、捜査を見守るのがもどかしい。一般の刑事事件なら、とうに逮捕されているケースではないか。日米地位協定が壁になっている。一九九五年に起きた沖縄県での米兵による少女暴行事件をきっかけに、起訴前の身柄引き渡しが可能になったとはいえ、あくまで米側の「好意的考慮」にすぎない。協定見直しは不可能なのか。事件のたびに痛感する。
|