兵庫県内の三次救急医療機関
加古川市の女児刺殺事件で、救急隊による女児の搬送先が現場から三十キロ以上離れた神戸市須磨区の兵庫県立こども病院だったことに、加古川市や神戸新聞社に「なぜ近くの病院に運ばなかったのか」と疑問の声が相次いでいる。背景には小児科医不足の影響を受ける県の小児救急医療体制の脆弱(ぜいじゃく)さがあり、同市消防本部は「現状では最善の搬送だった」と説明する。
同本部によると、救急隊の現場到着は通報から二分後の午後六時八分。隊員は左胸部の傷を見て命の危険があると判断、同十二分に県災害医療センターのドクターカーを要請し、神戸方面へ出発した。その後、第二神明道路で同三十八分にドクターカーと合流し、応急処置をしながらこども病院に着いたのは同五十一分だった。
しかし、こうした対応に疑問の声が相次ぎ、本紙「イイミミ」にも約十件が寄せられた。同市の主婦は犯人が捕まらないことに加え「なぜこども病院なのか、みんな驚いている。加古川には大きな病院が複数あるのに」と指摘する。
小児を含む県の救急医療体制では、今回の女児のように、生命の危機にある重篤患者は、二十四時間対応の「三次救急医療機関」に運ぶ。三次は県災害医療センターをはじめ、県内六ブロックに各一カ所の計七病院。小児はこれに、こども病院も加わる。
重篤患者のうち、大人は地域内の「三次」で対応できることが多い。しかし小児の処置は成人とは違った体制が求められるため、三次でも対応できないケースが多く、搬送先がこども病院に集中している。
外傷による小児の緊急手術の場合、小児外科医をはじめ、子どもの麻酔管理ができる医師、子ども用の人工心肺装置などの備えが必要となる。しかし、小児科医不足の影響もあり、三次でも受け入れ体制が取れなかったり、病院に小児科自体がなかったりするからだ。
県医務課は「小児重篤患者に対し、県内で緊急手術などに常時対応できるのはこども病院だけ。各地域で同様の体制が取れればいいのだが」と話す。
今回の加古川市のケースでも、県立姫路循環器病センター(姫路市)が最寄りの三次機関だったが小児科がなく、こども病院への搬送となった。加古川市消防本部は「医師への引き渡しは通報から三十分後と素早く、最善の対応だった」としている。
救急医療体制 疾患や外傷など緊急の治療、処置が必要な場合の医療体制。患者の重症度に応じて三段階に分けられ、軽症の「一次」は在宅当番医や休日夜間急患センター、入院や手術が必要な重症の「二次」は輪番制の病院など、生命に危険のある重篤の「三次」は救命救急センターがある病院などで対応する。