Judgment day〜土壇場で勝利のバトンをつないだ松坂
リーグ優勝を決め、笑顔を見せる松坂。(写真提供:AP Images)
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【ボストン21日=古内義明】ロッカーでうなだれている男の姿は、そこにはなかった。松坂大輔はア・リーグ優勝決定シリーズ第7戦のマウンドに立っていた。
ポストシーズン2試合に先発した松坂は0勝1敗、防御率6・75。ともに4回2/3でKOされた。10月15日のインディアンス戦が終わった後、ロッカールームで座ったまま動かない松坂に、「自信喪失か」という声も出た。その姿を見ていたチームメートは、黙っていなかった。「あいつがマウンドに上がれば、いつでも勝てるとまだ信じている」とジョシュ・ベケットが言えば、カート・シリングは「(ダイスケには)勝つことだけしか十分な言葉がない。マウンドに上がって、勝つだけ」と背中を押した。
「チームが3敗した後、自分でも、もう1回(出番が)回ってくると思った。チームのみんなにも『必ずもう1回お前に回すから準備をしておけ』と言われた」。仲間を信じた松坂に、名誉挽回のチャンスは最高の舞台で回ってきた。
ブルペンでの投球練習を終えた松坂は、出迎えたリリーフ陣と一人一人ハイタッチを交わした。ダッグアウトに引き上げてくる松坂に、3万7165人のファンからの大声援が飛んだ。
勝てば、ワールドシリーズ。負ければ、すべての批判を浴びる矢面に立つ。戦いの舞台は整った。
今シーズン一番とも言えるような立ち上がりだった。初回、スコアボードのスピードガンは95マイル(約153キロ)を表示し、ストレートは間違いなく走っていた。外角にコントロールされたボールは、凡打の山を築いた。
「球威自体は前回もあったが、今日は早めにストライクを先行させて、甘いボールでも力で抑えこめるようにとことん投げて行こうと…。その結果どんどん早めに抑え込めたし、それができたのが大きかった」
こう語る松坂にとって、うれしい先制点だった。初回1死一、二塁でマニー・ラミレスがショートを襲うレフト前タイムリーで1点をスコアボードに入れると、続く2回にも併殺の間に2点目。3回には、マイク・ローウェルの犠牲フライで、早くも3−0とリードを広げた。
3回まで44球という理想的な球数だった松坂は、早めに打者を追い込み、ボールを絞らせなかった。そこにインディアンス打線が襲いかかった。
4回、トラビス・ハフナーとライアン・ガルコに甘くなったスライダーを運ばれ、1点を失った。5回には、フランクリン・グティエレスとケーシー・ブレークに連続ヒットを浴びて、グレイディ・サイズモアのセンターへの犠牲フライで2点目を失った。なおも、2死一塁のピンチで、ブルペンではジョシュ・ベケットと岡島秀樹が準備を始めていた。
「今日はベケットが待機していると聞いていたので、できることならもっと長いイニングを投げたいとも思っていた。とにかく飛ばして、行けるところまで行こうと思っていた。今日は初めてそういう形で投げられ、後ろにつなげられて良かった」。松坂は粘るアスドルバル・カブレラに対して、外角にチェンジアップを決め、こん身のガッツポーズを見せた。
「ダイスケは気持ちで投げていた。ベケットは早めに準備させていたが、1人とか2人では使いたくなかった。ハフナーからの6回は、先頭から岡島に決めていた」。テリー・フランコナ監督の決断は早かった。「総力戦」と明言していた通り、5回から松坂に代えて岡島を投入し、インディアンスの反撃を止めにかかった。「こういう試合に入っていけば、気持ちを強く持っていくことと、腕を思い切って振ること、絶対に勝ちたいという姿勢を回りに見せたいと思っていた。それを見ている人に伝えたかった」と振り返る松坂は、5回まで88球を投げ、ストライクは61球。今季4度目の無四球だった。
松坂は勝つための投球を心がけていた。ポストシーズンの被打率3割1分7厘が示すように、1球のミスが致命傷になる。前回の反省を踏まえ、ファストボールのコントロールに気を配り、さらに、カーブやチェンジアップを交えた緩急で、打者のタイミングを外した。これまでにない制球力と緩急は、勝ち投手(日本人選手のポストシーズン初勝利)に値するピッチングだった。
インディアンスにとっては7回の1死二塁が最後のチャンスだった。グティエレスの打球は三塁の横を抜けたが、三塁コーチは二塁ランナーのケニー・ロフトンにストップの指示。この後、「今日は決まる試合だったので、自分を信じて開き直って全力で行った。(あのピンチは)絶体絶命だったが、何が何でも止めておきたかった」と振り返る岡島はダブルプレーでピンチを切り抜けた。そしてその裏、ダスティン・ペドロイアがグリーンモンスター越えの2ランで5−2と試合を決めた。
8回、岡島が無死一、二塁のピンチを招いたところで、マウンドにはジョナサン・パベルボンが上がった。「岡島はいい投球をしていたし、もしパベルボンを7回に使えば、ベケットを抑えで8回、9回に起用しようと思っていた」とフランコナ監督。中3日のパベルボンは、98マイル(約158キロ)のファストボールで後続を断った。
9回裏、アウトが一つ増えるたびに、ファンのボルテージは高まった。最後はココ・クリスプがセンターへの大飛球を捕ると、ダッグアウトから選手たちが飛び出し、歓喜の輪ができた。
1勝3敗という土壇場から踏みとどまり、3連勝を達成したフランコナ監督は、「(劣勢にも)ナインは動揺することがなかった。(ジェーソン・)バリテックがホームを守り、ベケットやシリングがマウンドにいる。彼等は期待通りの仕事をしてくれる。おれたちには頼りになるやつらがそろっているから、跳ね返せると思っていたよ」とシリーズの勝因を話した。クラブハウスでは、頼もしい男たちが何とも言えない笑顔で喜びを分かち合っていた。
その輪の中心に松坂がいた。「こういう形の試合に自分が投げたいと思っても、投げられるものではないし、これはWBCの決勝でもそうだったけど、そこに回ってきた自分はラッキーだと思っていたし、この流れで来たら負けることはないと思っていた」。チームメートは劣勢の中でこそ、力を発揮した。その姿が松坂をよみがえらせた。仲間から信じられ、仲間を信じたシリーズだった。
「本当にチーム全員で7戦までつなげてくれたので、今日はその気持ちに応えたいと思っていました」
松坂が勝利のバトンをワールドシリーズにつないだ夜だった。
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