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陸上自衛隊幹部に聞く小沢代表のISAF参加論

2007/10/22 14:18

 


 民主党小沢一郎代表が主張しているアフガニスタンで活動する国際治安支援部隊(ISAF)への自衛隊参加論が波紋を広げていますね。小沢民主党が次期衆院選後には政権を取る可能性があるので、新聞各紙もみんな真剣に受け止めているようですが、私の率直な感想は「小沢さんは相変わらずわけの分からないことを言っているなあ」というもので、これまであまり真面目に取り上げる気はしませんでした。

 小沢氏は、何の根拠があってか国連を国家主権より上位に据え、国連決議によって武力行使も合憲となるという、これまた理解し難いことを主張していますね。この問題については、弁護士でもある自民党の稲田朋美衆院議員が「法的問題として神経質に反論すること自体がナンセンスだ」と喝破していましたが、私もそうだろうなと思います。

 小沢氏の師匠にあたる金丸信氏や、政敵だった野中広務氏の場合もそうですが、マスコミがやたらと虚像をふくらませ、何かわけの分からないことを言い出しても、無理矢理深読みしたり、あるいは大変な問題提起であるかのように持ち上げて大騒ぎしたり、ということが繰り返されています。そして、マスコミが大きく取り上げることが、政治の場での議論にも反映されていくという構図です。

 現在、民主党はアフガンに自衛隊は派遣せず、現地で医療など民生部門で活動するJICA職員やNPO関係者、丸腰の防衛駐在官らを多国籍民間警備会社という名の「外人部隊」に守らせるという案を検討しているようですが、前原誠司元代表は「そんなの無理だ」と言っているようですね。党内からもさすがに異論が出ているように、これは私もめちゃくちゃで穴だらけの案だと思います。

 そこで本日は、小沢氏のISAF参加論がどの程度、実現性があるのか、クリアしないといけない問題点は何なのかについて、知人の陸上自衛隊幹部に意見を聞いてみました。忙しい相手に電話で聞いた話なので、不十分な点もあるでしょうが、現場の一つの見方として参考にしていただければ幸いです。以下がやりとりです。

 《 そもそも自衛隊のISAF参加についてはどう考えるか

 陸自幹部 ISAFそのものは、国連安保理決議があるので参加は可能だ。国連憲章25条は法的拘束力を決めているし、日本としてはこれを遵守し、履行する義務がある。しかし、どういうことをやるかは自国の憲法なり、防衛政策なりを踏まえ、主権国家たる日本が自ら選択し、国連安保理に報告し、承認を受けて履行することだ。
 ただ、ISAFの性格は、治安維持部隊としての性格が濃厚な世界で、武力衝突を予期しながら活動しないといけない。治安維持部隊は、相手を武力でねじ伏せることを前提としたものではないが、必要な武力を行使する場面も出てくる。ISAFの活動は後方支援組織であれ、すべてそのことを認めた上で行動しなければいけない。そうなったときに、小沢氏が言う「民生」支援だから、武力衝突しないで済むか?相手から見れば関係ない。ISAFに与しているものはみな一体として見ているだろう。

 私 自衛隊は武力衝突に耐えられるか

 幹部 端的に言えば、すべて初めての行動となる。ただし、どこの国の軍隊も要員も、若い連中はほとんど初めての体験をしている。中隊長以上の指揮官以外はみんな初ものだろう。自衛隊にISAFの活動ができるかできないかと言われれば、できないと言うわけにはいかないと思う。実際に行けば戦闘員としての感覚が研ぎ澄まされるし、力は持っていると評価している。

 私 法的にクリアすべきことが出てくるのではないか

 幹部 治安維持という日本の国内法の世界で考えるのか、国際基準で考えるのかという整理が必要だ。もしやるとしたら、自衛隊の派遣根拠となる特別法をつくらないといけない。その際には、活動の主語は自衛官、個々の隊員ではなく「部隊」として書き表すべきだ。PKO法もテロ特措法も最後は隊員個々、個人に責任が重くのしかかっている。部隊として行動し、武器使用できるようにならないと国際標準で活動できない。いちいち個々の隊員が責任を問われることになってはいけない。

 私 自衛隊の負担は大きいのではないか

 幹部 それはあるだろう。ISAFの場合、いわゆる期限はない。派遣部隊の行動期限はどのくらいにするのか。10カ月か1年か。その要員をずっとプールし、ISAF用の訓練を行うことを考えると、非常に悩ましいと言える。原則的な実施能力の見極め、部隊編成、指揮官をだれにするのか…ちょっと対応しきれないのが現状かもしれない。

 私 小沢氏はずっと国連待機部隊の設置と、そこからの派遣を主張してきたが、今回のISAF参加の件ではあまり言及していないようだが

 幹部 国連待機部隊というのは、いわば第二自衛隊であり、そんなのを設立することが認められるわけがない。やはり、アフガンに出すとしたら今の自衛隊となるのだろう。基本的には、今年3月にできた中央即応集団から先遣隊を出し、あとは各方面隊から持ち回りで部隊を出すしかない。現地で耐えられるのは半年かな…。

 私 国内有事への備えにも影響しないか

 幹部 それもあるだろう。いったん部隊を出すということになれば、その2.5倍の予備勢力を保持しないといけない。治安維持任務だとして、それに500~600人を出すならば、それぞれが自己完結して本部機能や管理機能、衛生機能を備える必要があることから、結局1000人ぐらい派遣することになる。任務にもよるが、小沢氏の言う民生支援で燃料補給や医療、建設など細々とした任務がある場合は、それに合わせて周りの支援態勢も組まないといけない。単なる治安維持任務のときよりも人数がふくらみ、1500~2000人ぐらいいるかもしれない。しかし、自衛隊にはもともと全体で医官は900人しかいないが。

 私 小沢氏は昔から国連中心主義で一貫しているが、主権を国連に委ねるというそもそも出発点と立脚点が理解できない

 幹部 あの人は自分が言っていることの意味が分かっていないのではないか

 私 国連中心といっても、実質的には拒否権を持つ安保理常任理事国の5カ国のことになる。中国やロシアの都合に従うということになりかねない

 幹部 どこの国も国連に主権なんて委ねていない。国連軍という形をとっても、参加国は直接的な部隊指揮などどこからも受けていない。国連軍の指揮官の仕事は、参加国の役割分担を示すことであり、実際の行動の中身は各国に任せている。どこの国もよその国の軍隊の指揮下には入らない。

 私 小沢氏の理想だか夢想だかにみんな振り回されているだけでは

 幹部 それはあるだろう。また、小沢氏の言動の場合はブレが大きい。あっちに行ったり、こっちに行ったりで、今の自分にとって都合の悪い活動については武力行使だと声高に言うし、ISAFの性格や何をやっているかを理解しないまま声高に参加を主張したり…。》

 繰り返しますが、民主党は現在、自衛隊は派遣しない形でのISAF参加を模索しているようですが、現実的ではないと考えます。また、仮に自衛隊を派遣するというのであれば、そのときにはまず、実際に現地に行くことになる自衛官の意見と見方によく耳を傾ける必要があると思います。

 かつて、イラク特措法の制定過程においては、当初は自衛隊の任務として「大量破壊兵器の処理」という項目がありました。これは結局、自衛隊側からの「われわれは大量破壊兵器処理などやったことがない。第一、大量破壊兵器の研究すら許されてこなかった」という反論から削除されましたが、現場の声を無視して机上の空論をいくら積み上げても仕方がないと思うのです。

 今朝の毎日新聞の世論調査では、ISAFへの日本の参加について賛成が26%、反対が62%でしたし、民主党内にも「あれは小沢氏が言っているだけだ」と反対論が根強いようです。民主党が政権を取ったら、急にこの数字が逆転するとは思えませんし、やっぱり実現性は薄いと考えますが、それにしても小沢氏は頑固だからなあ。さて、この問題はどう推移していくのか…。

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コメント(10)

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2007/10/22 14:55

Commented by 047696 さん

こんにちわ!

私が小沢氏を信用しない理由です。

1、国連には日本、ドイツイタリアを敵国と指定していますが、敵国でも
  国連中心主義なのでしょうか?まず、日本が国連に全面的に協力するに  は最低限、敵国条項の撤廃をしてからの話でしょう!
  日本の国益を考えた主張ではないと考えます。
2、小沢氏は日本の憲法より国連の憲章の方が優位性があると考えているの  でしょうか?
3、小沢氏はISAF参加に対する言動に不一致が見られます。ぶれていま  す。
4、ISAFに自衛隊を参加させるのであれば、民主党議員が議員団を組み
  アフガニスタンに常駐し自衛隊と共に生死を賭けるべきだと考えます。
  民生団を送るにしても、同じことです。
5、ISAFについては当初自衛隊参加させる、今は民間警備会社を使う?
  (小沢氏、狂ってますなあ!)
6、その他字数関係で省きます。いずれにしても言動不一致!

 
 

2007/10/22 15:08

Commented by Bookers さん

>国連を国家主権より上位に据え、国連決議によって武力行使も合憲
陸自幹部氏の仰るとおり、中国・ロシアの意志に従うということでしょう。

>国連待機部隊というのは、いわば第二自衛隊
これは自衛隊ではなく明らかな軍隊ですよね(笑)私は自衛隊を国防軍に名称変更すべきと考えていますが、「第2自衛隊」は自衛隊と異なり武力行使できるのでしょうか。

小沢氏の発言は全く理解できません。
憲法改正については言及してませんし、国連は超法規なのかな?
他野党からも批判の声が出ているようですが、私の知るところ、まだサヨク団体から大きな反発の声はないようですね。

いろんな面でこの話は???だらけです。
えっ?民主党憲法9条改正に賛成なんでしたっけ(笑)

 
 

2007/10/22 15:23

Commented by weirdo31 さん

小沢氏につてはあちらこちらに書いたので、もう言及するのも不愉快になるが、分からないのは山岡賢次のような超イエスマンは別にして、鳩山とか菅が唯々諾々とうれしげに追従していることです。

二人とも一度は党代表になったこともあるのだから、小沢がぶちあげる口から出任せを窘めるぐらいの器量がなければおかしい。

菅はまだ苦笑いしながら追従こいてるようにみえますが、鳩山に至ってはなにか物の怪に憑かれた夢遊病者のような感じで、おろおろと小沢をフォローしているように見えて情けない。

こういう妖怪まがいが徘徊するのも末世的現象かと悲観せざるを得ません。

 
 

2007/10/22 15:31

Commented by jess-kun さん

新聞(貴紙を含め)にはよく「参院選を大勝させた小沢氏には、誰も逆らえない」という意味のことが書かれてありますね。
確かに前原氏は何かしら反論していますが、何か狼の遠吠えみたいだし…。小沢氏に向かって「理を説く」人は、民主にはいないのでしょうかね。万が一このような人に国政を任せる事態となれば、いまの福田氏よりもっとひどいことになりそうな予感…!

 
 

2007/10/22 15:38

Commented by 阿比留瑠比 さん

047696様
 こんにちは。1~6と具体的に提示していただき、ありがとうございます。一言で言えば、「わけが分からない」というのが私の感想です。まあ、小沢氏に近い旧自由党幹部は「日本人より国連の方がまだ信用できる」と言っていましたから、そういう考え方なのでしょうが…。

 
 

2007/10/22 15:43

Commented by 阿比留瑠比 さん

Bookers様
 小沢氏が平成16年3月19日に民主党の横路氏ら旧社会党グループと締結した政策協定には「自衛隊は憲法9条に基づき専守防衛に徹し、国権の発動による武力は行使しないことを日本の永遠の国是とする。一方においては、日本国憲法の理念に基づき国際紛争の予防をはじめ、紛争の解決、平和の回復創造等国際協力に全力を挙げて取り組んでゆく」とあります。憲法9条を変える気はないのだろうと推測します。

 
 

2007/10/22 15:47

Commented by 阿比留瑠比 さん

weirdo31様
 鳩山氏と菅氏は、ともに小沢氏から政権奪取後の首相就任をほのめかされ、競わされているのではないでしょうか。そんな印象を受けています。先日もある会合の席で、鳩山氏の人相が悪い方に変わったということが話題になりました。

 
 

2007/10/22 15:49

Commented by 阿比留瑠比 さん

jess-kun様
 まあ、小沢氏はだれかに理を説かれて耳を傾けるような人ではないので…。独裁者タイプとは、そういうものかとも思います。福田首相も、世間では調整タイプなどと言われていますが、今は仕方なくそう振るっているだけで、本来は独裁者タイプだと見ています。

 
 

2007/10/22 16:02

Commented by 七瀬またたび(DarkSide) さん

こんにちは。

>鳩山氏と菅氏は、ともに小沢氏から政権奪取後の首相就任をほのめかされ、競わされているのではないでしょうか。

そういえば、今では殆ど触れられませんけど、小沢氏も健康問題を抱えていましたね。

私はさらに妄想をふくらませて、鳩山氏と菅氏を競わせて、両方潰れてくれることを願っている(若しくは画策している)勢力があるのではないか?と想像したりしてます(笑)

横路氏あたりなんか、あまり目立たないだけにイヤラシイ存在だと思っていますが。

 
 

2007/10/22 16:09

Commented by 脱リーマン さん

阿比留さん

こんにちは。結局民主党は「給油支援特措法」への対案提示は見送ってしまうのでしょうかねぇ … 党首はあれほど過激な持論を展開していたのに … 対案を示さないのなら、民主党は何の為の反対なのかを明確にしてから国会論戦を展開して欲しい物です。「防衛省もしっかりしてくれよ!」なのですが …

阿比留さんもご存じだと思いますが … 先日まで古森さんのブログに小沢氏を信奉するD氏が現れ、古森さんはじめ皆さんと大激論を交わされていました。

余程“Iza”の居心地が悪かったのか、ISAFをめぐる風向きが悪くなってしまったからか、残念ながらIzaから自主的に退場されてましたね …

「筋金入りの小沢信奉者でIzaには貴重な存在だな!?」と個人的には思っていたので残念だったのですが、このエントリに対するD氏のコメントも聞いてみたい物です。

 
 
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