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社説(2007年10月22日朝刊)

[臨床研修制度]

へき地医療に知恵を絞れ

 二〇〇四年から始まった臨床研修制度を機に、研修医の大学病院離れがすっかり定着したようだ。

 新制度では医大生と病院の双方の希望を基にマッチング方式で研修先を決める。日本医師会などでつくる協議会が公表したマッチング結果によると、来春卒業の医大生ら約八千人が臨床研修をする病院のうち大学病院が占める割合が三年連続で50%を割り込んだ。

 へき地医療などを支えてきた大学の医師派遣機能が低下し、地域医療を直撃する構図が続く。政府は緊急対策を打ち出しているが、より即効性のある緊急対策が必要ではないか。

 募集定員に対し確保できた学生の割合(充足率)を大学病院別にみると、充足率が100%だったのは十八病院で残りの九十一病院は定員割れ。二十三病院は50%を下回った。

 従来、研修医の約七割が大学病院で下積みをしていた。十分な研修プログラムもないまま、安価な労働力として使われているとの批判も出ていた。

 医師の資質向上策として、医師免許取得後、二年間の臨床研修が義務化された結果、民間の市中病院などに学生が流出するようになった。

 一方、人手不足に陥った大学病院側が過疎地に派遣していた若手医師を引き揚げる事例も出てきた。医師不足は救急医療にも影響を及ぼしている。

 厚生労働省が昨年実施した臨床研修に関する調査によると、市中病院は「職場の雰囲気がよい」「必要な症例の経験が十分」など研修医の満足度は高い。しかし、大学病院については「待遇・処遇が悪い」「雑用が多い」などの不満が目立っている。

 厚労省は「大学病院離れや都市部への集中は学生の自由な選択の結果。制度自体の問題ではない」としている。

 新たな臨床研修制度を前提にするのなら、地方の医療危機に対処するきめ細かな方策が不可欠になる。

 政府は五月、緊急医師確保対策をまとめた。緊急医師派遣制度は過去六カ月以内に休診に追い込まれた診療科がある―などの要件がある。医師を確保できるかどうかなど課題も残る。

 また、大学医学部の入学定員を増やすことも検討している。増員分の学生の授業料などを自治体が全額肩代わりし、へき地などの病院、診療科を指定して九年間の勤務を義務付ける。だが結果が出るのはまだ先のことだ。

 離職した女性医師の復職支援、勤務医の過重労働解消なども検討されているが、これまで大学病院が担っていた過疎地への医師派遣などの役割に代わる新たな仕組みを早急に構築し、充実させていくことが大事ではないか。



社説(2007年10月22日朝刊)

[知事四選禁止]

自治体の選択に任せよ

 神奈川県議会は、知事の任期を恒久的に「連続三期十二年まで」に制限する多選禁止条例を可決した。多選自粛を求める条例の事例はあるが、禁止条例は全国で初めてという。

 ただし、施行時期は当初案の「公布の日から」を「別に条例で定める日」と修正した。事実上、地方自治法などが改正され、多選制限が認められる規定が設けられた後の施行になる。

 昨年、官製談合事件で五期目の福島県知事が逮捕されたのを機に、多選禁止をめぐる議論が盛り上がった。今回の条例は多選禁止論に一石を投じた先駆的な取り組みと評価できよう。

 多選については行政の停滞や腐敗を招くという批判がある一方で、多選制限は憲法上の職業選択の自由や立候補の自由などを制約し、有権者の選択肢を狭めるという慎重論も根強い。

 法律で一律に制限するのか、条例で制限できる根拠規定をおくのか。問題点を整理した上で、制限については自治体の判断に任せる方向で調整していくのが望ましいのではないか。

 神奈川県議会は昨年十二月、同様の条例を否決した。松沢成文知事は四月の知事選で多選禁止をマニフェストに掲げて再選され、議会に再提案した。

 総務省の「首長の多選問題に関する調査研究会」が五月にまとめた報告が再提案を後押ししたようだ。

 研究会は、憲法の基本原理である立憲主義や民主主義、基本的人権尊重や地方自治の原則など憲法の関連規定に抵触するかどうかを詳細に検討した上で、首長の多選制限について「合憲」との見解を打ち出した。

 ただ、報告は憲法上の問題に焦点を当てているため、具体的な立法政策については国民的論議に委ねている。

 従来の地方分権論議の中でも首長の多選制限の問題が論じられてきたが、具体的な結論までには至っていない。

 研究会の報告で憲法上の問題がクリアされた形になり、多選制限論も新たな段階に入った。個々の自治体の実情や分権の視点などを踏まえ、さらに論議を積み重ねていく必要がある。


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