米ワシントンで開かれた先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が、世界経済が減速することに懸念を示した声明を採択し、閉幕した。四月のG7声明が「過去三十年超で最も力強い持続的拡大」と明るさを強調したのに比べると、様変わりだ。
今回の声明が指摘した減速懸念要因は、信用度の低い借り手を対象とする米サブプライム住宅ローン問題をきっかけとした金融市場の混乱のほか、米国の住宅建設・販売の落ち込みと原油価格の高騰である。G7は、強まる景気の下振れリスクを直視せざるを得なかったのだろう。
サブプライム問題は八月に深刻化した。欧米の金融機関の損失が膨らんで世界的に株式・金融市場が不安定になった。しかし、「世界経済は力強く拡大」とした四月時点でも、焦げ付きが急増していたサブプライム問題や米住宅市場の変調から、景気の冷え込みが懸念されていた。
楽観的な声明が出されたのは、米国批判の高まりを嫌うポールソン米財務長官が議長国として楽観論で押し切ったからとされる。その後の経緯をみると、結果的にG7は世界経済に潜むリスクに目をつぶり、対応が遅れたと批判されても仕方なかろう。
今会議はサブプライム問題を主要議題とし、声明は「経済全体の基礎的諸条件は引き続き強い」と強調したうえで、成長を維持するためにG7各国が役割を果たしていくことを約束した。危機の再発防止に向け、サブプライムローンなどを組み込んだ複雑な金融商品の価格評価やリスク管理の手法などを検討することで合意した。
即効性のある対策とはいえず、今回のG7声明では金融市場の混乱を防ぐのは力不足といわざるを得ないだろう。米大手銀行のシティグループとバンク・オブ・アメリカは、サブプライム関連金融商品などで大幅な評価損を計上したが、すべての損失が顕在化していない恐れがあるといわれる。金融機関は不安を抱えたままだ。
議長を務めたポールソン米財務長官は、会議後の会見で米経済が抱える最大のリスクは住宅部門の低迷だと述べ、景気拡大を危うくする恐れがあるとの認識を示した。米景気が大幅に低迷するようなことになれば、輸出頼みで成長してきた日本など世界経済は打撃を受けよう。
原油価格が一時一バレル=九〇ドルを初めて突破し、一〇〇ドルを超えるとの観測もある。不安材料だ。G7各国が声明に明記された、成長維持にそれぞれの役割を果たしていく責任は重い。
臓器移植法が施行され十年が経過した。この間に実施された脳死移植は全国で六十二例にとどまり臓器提供者(ドナー)の増加に結びついていない。
臓器移植法は、移植が行われるときに限って、人の死を脳死と定め、臓器の摘出を容認した。十五歳以上の提供者本人が生前に提供の意思を書面で示し、家族が拒まないことなどが必要となる。透明性を高めるため、脳死判定や摘出、患者の選定などの手続きには厳しい条件がある。
このため医療現場での負担が大きく、ドナー不足の要因となっているといわれる。移植以外に助かる方法がない患者がドナーを待ち続けた末、やむなく海外で手術を受けるケースは増える一方だ。
患者の要望を受け、与党から二つの改正法案が国会に提出されている。本人が拒否していなければ家族の承認だけで臓器摘出ができるようにするA案、意思表示の年齢を十二歳以上に引き下げるB案がある。本人の意思確認を不要とするA案は、現行法の精神を損なう恐れがあり、B案も虐待死の場合などで問題が残る。慎重な議論が必要だ。
総理府(現内閣府)が実施した世論調査では「脳死と判定されたら心臓や肝臓などの提供をしたい」と答える人は一九九八年に31・6%だったが、二〇〇六年には41・6%に増え関心の高まりがうかがえる。しかしドナーカードを持っている人は、昨年8%と伸び悩んでいる。
現状ではまずカードの普及を積極的に進めることが重要だ。臓器提供施設を増やす努力も求められよう。腎臓や角膜などは、心臓死での摘出も可能な臓器で、理解が進めば移植件数を増やすことができる。移植医療への関心をさらに高めたい。
(2007年10月21日掲載)