◎偉人の顕彰 ゆかりの地つなぐ施設がいる
金沢市出身の仏教哲学者、鈴木大拙の生誕地(本多町)に小公園が整備され、ブロンズ
製の胸像などが設置された。市は大拙をしのぶ道の整備も検討しているが、これらを生かすためにも、ゆかりの地をつなぐような記念館がやはりほしい。顕彰する偉人の中核的な施設があってこそ、ゆかりの地にも光が当たり、その人物の全体像をより分かりやすい形で内外に発信できるのではないだろうか。
金沢市では藩政期以来の城下町遺産を保存する動きが広がっている。「歴史都市」に磨
きをかけるなら建造物や景観だけでなく、その土地で生まれ、大きな足跡を残した歴史上の人物の功績をたたえ、いつまでも忘れないようにしていくことも大事である。それが「都市の風格」を高め、歴史を通したふるさと意識の醸成にもつながるだろう。
偉人を顕彰する独立した施設がその人物やゆかりの地への関心を高めるのは、金沢三文
豪の記念館を見てもよく分かる。泉鏡花、室生犀星、徳田秋声は石川近代文学館にコーナーがあったが、この十年間でそれぞれの記念館ができ、そこを基点として作品の舞台や文学碑、墓所、関連する寺社などが一つにつながり、文学ファンのみならず、ゆかりの地を巡る観光客が目立つようになった。
目を見張るのは、各記念館に学芸員などがいるため各地から情報が集まりやすく、遺族
や関係者から「ゆかりの地で多くの人に見てほしい」と書簡や直筆原稿などの寄贈も相次いだことだ。記念館ではそれらを研究することで新たな人物像を掘り起こし、企画展などで紹介している。偉人を生んだ土地が記念館によって研究する人材や情報を集め、研究拠点となった好例である。
大拙の資料は金沢ふるさと偉人館などで展示されているが、郷土が生んだ同じ哲学者で
も西田幾多郎の場合、かほく市に記念哲学館がある。そこでは西田哲学に触れる講演会やシンポが開催され、同市内にある西田の書斎「骨清窟(こっせいくつ)」に足を運ぶ人もここにきて増えている。
金沢市は週末滞在プログラムに座禅体験も想定するなど禅文化の発信に力を入れている
。世界に禅の思想を伝えた大拙はそうした取り組みを定着させるうえでも象徴的な人物となろう。
◎給油活動中断 思いやり予算と絡めずに
現行のテロ対策特別措置法が十一月一日で期限切れを迎え、インド洋で行われている海
上自衛隊の給油活動が中断することになる。防衛省などには日米同盟への悪影響を心配する向きもあるようだが、給油活動が中断したとしても、米国に対して引け目や負い目を抱くことはない。政府の対外政策が立法府の反対で頓挫したり変化したりすることは、どの国にもあることだ。国際社会が協力する「テロとの戦い」に日本も積極的に参加する必要はあるが、給油活動の中断は現状ではやむを得ない。
気掛かりなのは、給油活動の継続という対米公約の実施に支障をきたす結果、他の交渉
事で日本政府が必要以上に譲歩や遠慮をしてしまうのではないかということだ。例えば日米関係では現在、在日米軍の再編のほかに、米軍の駐留経費負担(思いやり予算)に関する特別協定が来年三月に失効するため、協定の再締結が喫緊の課題になっている。
基地従業員の給料や施設整備費、光熱水料などを賄う「思いやり予算」は、〇七年度で
約二千百七十億円に上る。米側は北東アジアなどでの軍事負担増を理由に来年度、光熱水料の大幅増額を要求しているといわれるが、給油活動の中断を「思いやり予算」の交渉に絡めるようなことがあってはなるまい。もし、給油活動の「借り」を「思いやり予算」で返すようなかたちで、安易に増額要求をのむことになれば、国民の理解を得られないであろう。
今後、さらに大きな財政負担を強いられるのは、在沖縄米海兵隊のグアム移転など在日
米軍の再編経費である。日本側の負担額について米側は二百六十億ドル(約三兆円)と見積もっているが、積算根拠は明確に示されていない。負担は避けられないとしても、甘い交渉にならないようにしてもらいたい。
安倍晋三前首相は、給油活動継続の国際公約を守れそうになくなったことを退陣理由の
一つに挙げた。しかし、実際に活動が中断しても、福田内閣は対外的な責任論にむやみにとらわれる必要はない。日米同盟は大事にしなければならないが、過剰な対米配慮はかえって同盟の基盤である国民の支持、理解を妨げることになりかねない。