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現在位置:asahi.com>社説 社説2007年10月21日(日曜日)付 G7と市場―先送りされた二つの難題8月から始まった混乱で、世界の金融市場は二つの難題を抱えこんだ。ワシントンで開かれた主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)は、当局のそんな苦悩を示す会合となった。 一つは「証券化して見えなくなったリスク」である。米国の低所得者向け住宅融資(サブプライムローン)が証券に置き換えられ、様々な証券と組み合わされて世界中に売りさばかれた。 幾重にも複雑に証券化されたので、サブプライムの損失がどこにどれだけ隠れているのか、誰にもわからない。疑心暗鬼が広がり、疑わしい証券が一斉に暴落する。「見えない恐怖」が引き起こした21世紀型の金融危機である。 これまでにシティグループやメリルリンチ、UBSなど米欧を代表する金融機関が、軒並み数千億円規模の損失を発表した。日本でも野村ホールディングスが1450億円の損失を出した。それで済むか市場には不信感が残っている。 今回のG7では、難題への答案を書けなかった。主要国の監督当局などで作る会合に対し、金融機関のリスク管理や当局の監督体制の改善策について提案するように求めた。専門家へ宿題を出して、とりあえずしのいだわけだ。 管理が行き過ぎれば市場のダイナミックな機能が失われる恐れがあり、頃合いが難しい。ただ、「見えないリスク」は肝心の市場を殺しかねないだけに、金融機関にも投資ファンドにも、情報開示を求めていく必要があるだろう。 もうひとつの難題は「国家という名の投資家」の登場である。 混乱する金融市場から逃げた巨額のマネーが原油市場へ向かい、初めて1バレル=90ドルを突破した。そこには、原油高で潤った産油国政府が運営するファンドの資金も含まれているという。原油高がさらなる原油高を誘うおかしな構図だ。 サウジアラビアやロシア、中国などが設けたこうした政府系ファンドの運用残高は、それぞれ10兆〜30兆円にのぼる。アラブ首長国連邦のアブダビ投資庁にいたっては、日本の年間政府予算を上回る100兆円規模といわれる。 これだけの資金を操れば、為替や金利、株価に影響を及ぼすことも、他国の基幹産業を買収することもできる。損得を超えた国家の意思が投資に反映されると市場をゆがめ、安全保障を脅かすかもしれない。厄介なのは、政府系ファンドの実態が外からうかがえないことだ。 G7は今回初めて、政府系ファンドをもつ8カ国の代表を招いて意見交換し、ファンドの実態や行動について積極的に説明していくよう求めた。中国などの新興国や産油国が世界経済に占める比重は飛躍的に高まっている。世界経済の問題を主要7カ国だけで解決できる余地は、ますます狭まってきた。 政府系ファンドの問題に限らず、新興国などと対話する機会をG7は増やしていかなければならないだろう。 救急延命中止―学会は結果の検証も重い病気やけがで、もはや助かる見込みがなくなったら、延命するためだけの治療はやめて、尊厳ある死を選びたい。そう思う人は少なくないだろう。 しかし、いったん始めた延命治療をやめるという重い決断は、だれがどのようにするのか。 日本救急医学会は、救急医療の現場で終末期を迎えた患者について、どんな条件を満たせば延命治療をやめてもよいかというガイドラインをまとめた。 ガイドラインはまず、終末期を「適切な医療の継続にもかかわらず死が間近に迫っている状態」と定義した。 救急現場では、運ばれてきた患者にまず、人工呼吸器や人工心肺などをつけて救命を図ることが少なくない。それでも助からないとなったら、どうするか。 末期がんなどでの入院と違い、本人の意思はわからないことが多い。家族の動揺も激しい。 ガイドラインによれば、本人の事前の意思がない限り、終末期で延命治療をやめるかどうかは、家族の意思を尊重する。家族の意思がはっきりしない場合や家族と連絡がつかない場合は、医療チームや病院の倫理委員会で判断するとしている。 救急現場という特殊な事情があるにしても、治療をやめるかどうかは患者や家族の意思に沿って決めるのが原則だ。家族の意思があいまいな場合には、気持ちが固まるのを待つべきだろう。 いくら家族を捜しても見つからないときには、医療側が判断するのもやむをえまい。ただし、判断には必ず第三者が加わるよう救急医学会が責任をもつなど、慎重な運用が求められる。 こうしたことも含め、救急医学会には、いくつか注文がある。 まず、一般からの意見を求めたとはいえ、ガイドラインは医師の立場でつくられていることを忘れてはならない。 延命治療の中止には明確な公的基準がなく、たとえ患者の希望でも、治療をやめた医師は殺人罪に問われる恐れがある。それが現場の混乱を招いていることから、このガイドラインもつくられた。 しかし、どのように死を迎えたいかはそれぞれの死生観がかかわる。このガイドラインを使っていくためには、社会に幅広く受け入れられることが必要だ。 患者がどのような状態のときに人工呼吸器をはずしたのか。家族とはどんな話をしたのか。それは患者にとって最善の道だったのか。救急医学会は事例ごとにきちんと検証し、公表してほしい。 そのうえで患者や市民、さまざまな分野の専門家の意見を反映させ、ガイドラインの内容を改善してはどうか。そうすれば、末期がんの患者などの延命治療をどうするかの幅広い議論にも役立つ。 延命治療を中止するにしても、その前提は救命の手だてを尽くすことだ。 救急医療をいっそう充実させる必要があることは言うまでもない。 PR情報 |
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