新たな事業体制度 「LLP」
柔軟な意志決定が可能なLLPの特質の生かし、
クリエーター集団を「下請け」から「メーカー」に
今年8月1日から新たに施行されたLLP(有限責任事業組合)。大阪でその申請第1号となった『BABEL6(バビルシックス)LLP』は、関西地区のプログラマー、デザイナー、イラストレーター、カメラマン、ライターといった幅広い「クリエーター」を束ねる目的で設立された。重視するのは「内部自治」による、柔軟かつスピーディーな意思決定が可能なこと。組合員は、自らデジタルコンテンツ制作を手掛ける深川正英さんと、マーケティング・プロモーションなどを行う有限会社カラー(内芝宏代表取締役)の2者。ともに36歳の深川さん、内芝さんの話を聞くと、日本型LLPの大きな可能性が見えてくる。
行政のバックアップが力に
Q:設立の目的は?
A: "前史"からお話しますと、クリエーターって基本はフリーで、媒体制作とかイベントとかの企画ごとに、必要とされる職種、人材が集まるパターンがほとんどなんですね。そんな仕事をしつつ、自分が中堅からベテランといわれる立場になってみると、優に100人を超えるクリエーター仲間のネットワークみたいなものが、自然とまわりに広がってきた。「今度、こんなプロジェクトに駆り出されたんだけど、いいデザイナーさんいない?」なんて問い合わせも、頻繁に来るようになったのです。クライアントさんからも「いい人材がいたら紹介して欲しい」という依頼が舞い込むように。で、考えた。こうした仲間を束ねる組織があれば、もっと効率的に仕事を回すことができるし、クリエーターの立場からお客さんに対して新しい提案を行うことなども可能になるかもしれない、と。そこで昨年5月に『バビル6プロジェクト』という任意団体を立ち上げたのです。僕ら二人が「世話役」のような役回りで、クライアントや他のクリエーターたちからの人探しの依頼に合わせて、自分たちのネットワークから人材を紹介する。ただし今のところ、このネットワークは緩やかな集まり。決め事があったり、束縛をするのではなく、任意で加入してもらい、タイミングが合えば仕事をお願いします。
Q:まだLLPの構想が明らかになっていない時期ですね。
A: 実は、欧米にはそういう仕組みがあるんだということは知っていて、羨ましく思っていたのですよ。われわれにぴったりじゃないかって。今年になって日本でもLLPが制度化されると聞いた時は、うれしいやら、びっくりするやら(笑)。法律が施行される8月1日に、一番乗りで登録申請しようと決めました。申請に当たっては、大阪市の運営する『大阪産業創造館』の無料相談を受け、そこで紹介していただいた司法書士の先生に書類の作成など、アドバイスいただきました。行政のバックアップには、本当に感謝しています。
LLP制度で組織が維持できた
Q:LLP設立のメリットを教えてください
A:メリットと言うか、もしこの時期にLLPという制度ができていなかったら、バビル6は空中分解していたかもしれません。知名度はほとんどゼロだし、単なる任意団体では外に対してはもちろん、内側にも「こんなことができる」という"説得力"がイマイチ。1年ほどやってみても、以前と違う展開というのは、正直、なかなか作れませんでした。やはり、「器」は大事なのだということを痛感しましたね。かといって、株式会社などの法人では相応の資金力が必要ですし、組織の自由度が損なわれてしまう。だから、LLPはまさに"渡りに船"だったのですよ。仲間たちには、メールなどで今回のLLP設立についての説明を行ったのですが、「企画するプロジェクトにぜひ参加したい」といった、積極的な反応が多く返ってきていますよ。
Q:「内部自治原則」が重要なポイントになったようですね
A: こういう業態ですから、自分たちでその都度「何をやるのか」を柔軟かつスピーディーに決めて動かせることが、何よりも大事なのです。ただし、バビル6をどういうルールで運営したら最もいい動き方ができるのか、具体的にどんなことができるのかは、まだよく分らないというのが本当のところ。分からないけれど、何かあるはず。もっと事業内容を明確にしてから設立するのが筋なのかもしれませんが、こうやって「考えながら走れる」のもLLPのいいところですよね。現在は、約50名分の「クリエーター」メーリングリストを作成しており、その他に"連絡がつく"クリエーターが50人ぐらい。例えば、仕事依頼がきたらメーリングリストに一斉に流したり、適当な人に声を掛けたり。将来的にはクリエーターのデータベースを作って、クライアントの要望により早く対応する一方、積極的な営業もできるようにしたいというのが夢ですね。
LLPの正しい姿を広めてほしい
Q:出資比率と利益配分を教えてください
A: 出資は、両者1万円ずつ。利益配分については特に定めていません。というか、そもそも利益追求を主目的にはしていないのです。LLPのモデルケースとして、「資金力のある企業と技術のある研究者などが組んで、得た利益は出資比率によらず分配できる」といったパターンが語られるのですが、現在のバビル6はそれには当てはまりません。僕らも含めて、利益はバビル6を通じてプロジェクトを受託し、個々が収益を上げられればいいと思っています。個々では受注しにくい仕事でも、組織化することで可能になることがあるのです。LLPは、あくまでもクリエーター集団の新たな可能性を追求する「器」という位置付け。僕たちにとってはこの形がベストなのです。
Q:では、将来的にも別の会社形態にするといった構想もないのです
A:バビル6そのものが株式会社や有限会社に移行することはないでしょう。ただ、その取り組みから生まれた「何か」が、別の会社形態を持つ可能性はあるかもしれませんね。現在、今まで述べてきたクリエーターのネットワークをベースに、クリエーターが"アーチストとしての力"を発揮できる場を提供する『Movin'Picture Project』と、クリエーターの人材育成を目的とした『Creator Agent Designer Associate』を立ち上げています。この3つのステージをうまく連動させることができたら、かなりおもしろい事業が展開できるのではないでしょうか。
Q:今のLLP制度に注文を付けるとしたら?
A: 制度そのものには注文どころか、感謝の気持ちでいっぱい。あえて言えば、行政には社会に対してLLPの姿を正しく広め、浸透させていってもらいたいと思います。今述べた人材育成などは、本格的にやろうとしたらそれなりの資金が必要。もしかするとスポンサーを募ることになるかもしれません。そんな時に「LLP? 何それ?」では、ちょっと困ってしまうので(笑)。
Q:今後の夢は?
A: クリエーターというと聞こえはいいのですが、実態は下請け。でも、この下請け同士が有機的に組んだら、「メーカー」になれるはずなのです。そんなモデルになれたらいいなと考えています。
LLPとはどんなもの? | LLPの3つの特徴 | 他事業形態との比較 |
LLPの主なルール | LLPを立ち上げよう | LLPに関するQ&A |
LLP事例1 | LLP事例2 | LLP事例3 |
LLP事例4 | まとめ(前編) | まとめ(後編) |