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「勤務前8時間は飲酒禁止」でいいの? バス運転手

2007年10月20日

 阪神電鉄のバス運転手が過去3年間に15人、乗務前の飲酒検査でアルコールの陽性反応を示していた問題で、関西の他の大手バス会社でもアルコール検査で乗務停止になる運転手が相次いでいたことがわかった。【9月29日付朝刊から】

写真出勤時に呼気中のアルコールを検査するバス運転手=大阪府高槻市芝生町4丁目の同市営バスの営業所で

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 バス会社や事業者が、乗務前の運転手へのアルコール検査に本格的に乗り出したのは02年ごろからだ。この年の夏に起こったジェイアール東海バスの飲酒運転事故がきっかけだった。

 いま、大半のバス会社では、運転手の出勤時や乗務前に営業所にあるアルコール検知器で呼気を調べる。各社が独自に決めた基準値を超えれば、運転手は乗務停止となり、懲戒処分になる場合もある。

 なぜ違反が相次ぐのか。原因の一つとみられるのが、多くのバス会社にある「少なくとも勤務前の8時間は飲酒禁止」の内規だ。

 京阪バスで今年度、乗務前検査で基準値(呼気1リットル当たり0.07ミリグラム)を上回ったのは14件。運転手の自己申告では、酒量は缶ビール(500ミリリットル)1〜3本程度で、いずれも飲んでから9〜11時間経過していた。

 運転手側からは「ルールを守って8時間あけたから大丈夫と思った」(京阪バス)など、戸惑いの声が上がっている。

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 各社が定めた内規「8時間前の飲酒禁止」の根拠は何か。日本バス協会(東京)によると、国土交通省自動車交通局が02年に出した飲酒運転防止の通達だ。この通達は「勤務前少なくとも8時間以上は飲酒をしないことを運転者に徹底する」ことをバス会社に求めている。

 ところが、国交省に「なぜ、8時間なのか」尋ねると、「決して、アルコールが体内から抜ける時間の基準ではありません」(同局安全政策課)との答えが返ってきた。

 同課によると、バス運転手の労働時間は厚生労働省の大臣告示で、勤務と次の勤務の間の休息時間は最低8時間以上と定められているため、「勤務前の休息時間に酒を飲まないようにという趣旨です」。

 ところが、通達を受けた日本バス協会では、飲酒運転防止対策マニュアルをつくる際、加盟社から「飲酒を禁止する時間の目安が欲しい」との声が出たため、国交省の通達に加え、酒造会社のホームページでビール大瓶1本なら約3時間でアルコールが分解するとあったことから、晩酌程度なら8時間ぐらいだろうと、02年10月に「勤務時間前8時間は飲酒を禁止」というマニュアルをつくった。

 多くの加盟社がこの文言を社内の内規にしたため、マニュアルには8時間以上たっても酒が残る場合があることも記載していたが、現場では「アルコールが抜ける目安が8時間」という認識が広がっていったらしい。

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 「8時間なんて頭に入れない方がいいと思う。人生が狂いますよ」。大阪市内のバス会社に勤める40代の運転手は語気を強めた。飲酒から8時間たっても基準値以上のアルコールが出た同僚を何人も見てきた。

 航空業界では、日本航空や全日本空輸は、出発時刻か出勤時刻のそれぞれ12時間前から乗務員の飲酒を禁じている。JR西日本や関西の大手私鉄は乗務前に飲酒検査をしているが、ほとんどが禁酒時間は設けていない。

 実際、アルコールが分解するにはどのぐらいの時間がかかるのか。京都府立医科大学の吉本寛司准教授(法医学)によると、一般的に体重60キロの男性がビール大瓶2本程度を短時間で飲んだ場合、分解時間は約8時間が目安だが、個人差もあり、飲み方や体調によっても大きく変わってくるという。

 バス業界で一人歩きしてしまったとも言える「8時間」。日本バス協会は「8時間以上たっても酒が残る場合があることを改めて周知徹底したい」としている。

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