自身のユニットcapsuleやDJとしての活動から様々なアーティストのサウンドプロデュースやリミックス、クラブイベントcontemode saloonのオーガナイズさらにアートディレクター/デザイナーなど、多方面で活躍中の中田ヤスタカさん。三回に分けて連載するインタビュー第一回目の今回は、5月10日に発売されたcapsuleのニューアルバム” FRUITS CLiPPER”の話を中心にお聞きしました。
■新作”FRUITS CLiPPER”では、前作から垣間みられたエレクトロやフィルターハウス的な楽曲がより一層目立つようになったと思うのですが、その辺りも踏まえながら、ニューアルバムのコンセプトを教えていただけますか?
(エレクトロな)音自体はもっと前からやろうと思っていたんです。僕のやっているcontemode saloonというイベントがあるんですけど、そのイベントで色々な曲をかけていた時に、「あ、こういう曲でも最近はみんな踊ってくれるんだ」みたいなタイミングがあったんですよね。じゃあ、もうcapsuleでやってもいいんじゃないかなって思ったんです。イベントとかで「次はこういうものを作ろうかな」って思っている曲をかけるじゃないですか。去年くらいから、ロックっぽいやつとかバキバキしたエレクトロのやつとかがかかったときに、割と「そういう方が良いよね」みたいな空気になって……。僕も「でしょ?」って思って(笑)。
■ 今までよりも男気のある音ですよね。
これまで割とcapsuleって女の子向けな感じだったじゃないですか。これからもそういう雰囲気は残っていくと思うんですけど、そういう女の子的なものが好きな男の子のファンにはウケが悪いのかもしれないですね。これまでは、雑貨屋さんとかで(capsuleの楽曲が)かかったりして、例えば服とかインテリアとか雑貨とかが好きな女の子に聴いてもらえたらいいなあ……と思っていたんですけど、でも、そういう風に作っていたにも関わらず、そういう雰囲気が好きな男の子もいて、capsuleが(当初よりも)性別があまり関係ないような音楽になってきていて。僕は男の子がイベントとかに来る比率が増えて嬉しいんですけど、でも、「可愛い曲を作ってください!」って言うのが、割と男の子の方が多い気がするんです(笑)。女の子の方が、変化が早かったりするじゃないですか。
■ 男の子よりも、女の子のほうが物事に対応する能力があったりして……。
そうなんですよね、女の子の方が順応っていうか、ちゃんと時代とともに自分も変化させて、その時その時の楽しみ方をしていくと思うんですけど、男の子って割と一本調子で。だから、最初はもしかしたら女の子は聴いてくれなくなっちゃうのかなって思っていたけど、逆に、昔からcapsuleを聴いてくれていた男の子のウケが悪くなっちゃったのかなーと思って……。まあ、別に気にしてないんですけど(笑)。
■あ、基本は気にしないんですね(笑)。
気にしないですね。僕はなんか「こういう音楽をずっとやっていきます」っていうタイプじゃないので、今僕が好きって思うものをやり続けないと、やっぱり僕自身が楽しくないので。僕自身が楽しんでないものを聴いて楽しんでもらうのもなんだか悪い気がするんです。なので、自分が楽しみながら作って出来上がったものを、聴いている人にも楽しんでもらえたら、自分もなんかこう後ろめたくないっていうか、一緒に盛り上がれる。「こういう音楽をやったら売れそう……」とか考えて作るのって、人を騙してるみたいであんまり好きじゃなくて。
■ 以前に比べてメロディーよりもリズムを主体にした“踊れる音”になりましたね。
文化部から運動部へ変わった感じ(笑)。capsuleも最近始めたわけじゃないので、ずっと昔から聴いてくれている人もいれば、極端な話、今回のアルバムから聴いてくれた人もいるわけじゃないですか。そういう感じでいうと、今回から聴いてくれた人のほうが、体育会系の人が多いみたいですね。今までcapsuleって割とデザイン寄りっていうんですかね。例えば、美術部みたいな……(笑)。
■内面的な?
そうですね。そういうのにけっこう僕は飽きてきて、もっと外で聴ける音楽にしたくて。家のなかでおしゃれインテリアとか並べて、自分で自分に浸るみたいなのもなんだか「気持ち悪っ」と思って(笑)。外で音楽を聴いてると雑音とか多いじゃないですか、特に都会だと。例えば、iPodでもウォークマンでも、ヘッドフォンで音楽を聴いて、周りが凄いうるさくても、それはそれでアリになるような音楽にしたくて。そういうのが今回はコンセプトですね。雑踏のなかで格好良く聞こえる。静かにして聴くっていうものよりも、“クラブノリ”っていうのも強いとは思うんですけど、みんなが喋ってても良くて、むしろ、静かに聴いてもつまらないかも。今回のアルバムは「うるさい状況下でも負けない」みたいな、そういう雑音もBGMにしちゃうくらいの強さをもったリズムにしたかったんですよね。
■capsuleは声も楽器のひとつであるというコンセプトが以前からあるような気がしていて、今回のアルバムでは特に肉体派のトラックになったということも関係してか、歌がメロディーよりもシーケンスに近いようなものになってきたと思うんですけども、その辺りも意識してそのように作ったのですか?
自分のやりたいタイミングっていうのもあるんですけど、たぶんcapsuleは元々バンドみたいな始まり方をしてないからっていうのもありますね。今までは、せっかくボーカルが固定メンバーとしているんだから、それを全面的に出そうかなって、一応気を使いながらやってたんですけど、今回は僕が自由に作る延長としてこういうバランスになったってことですね。今後は分からないです、どうなっていくかは。
■やりたい音楽に向けてどんどん変化していくという……。
そうですね。逆に言うと、capsuleが絶対変わらないだろうなっていうのはそういうところですね。「こういう音を作る」っていうのが変わらないんじゃなくて、今こういうバランスで作りたいと思ったものを作るっていう。やりたいことをやれている分、長く続けられているような感じですね。capsuleは、なんだか作り方だけを考えるとソロみたいなスタンスで出来るユニットなんです。だから、(ニューアルバムは)今しか出せない音だと思うんですよ。そういう今だからこそ出来る面白いものって沢山あると思うし。
■面白くて、今しか出来ないことをやっていたい、それがニューアルバムの“FRUITS CLiPPER”であるということですね。
(フジモトコウイチ:マニュアル・オブ・エラーズ)
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