現在位置:asahi.com>社説

社説天声人語

社説

2007年10月20日(土曜日)付

アサヒ・コム プレミアムなら社説が最大3か月分
アサヒ・コム プレミアムなら朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しく)

前防衛次官―率先して規律破りとは

 「自衛隊員は利害関係者と共にゴルフをしてはならない」。そう定めた自衛隊員倫理規程を、防衛省の次官が知らなかったとでもいうのだろうか。

 大物次官といわれ、8月末に退任した守屋武昌氏が、在任中に軍需専門商社の元専務と何年にもわたって頻繁にゴルフをしていた。この会社は次期輸送機のエンジンなどを受注していたのだから、まさに利害関係者である。

 ゴルフ場では、守屋氏の名前ではなく、偽名が使われていた。妻を同伴することもあったという。費用の一部は業者側が支払っていたらしい。

 この業者とのかかわりは、ゴルフ以外でも深かったようだ。特定の業者と癒着していたといわれても仕方があるまい。

 守屋氏といえば、政治家との太いパイプを背景に、中央官庁では異例の4年間という長期にわたり防衛省の事務方のトップを務めた人物だ。その重責にある人としては、信じられないほど非常識な振る舞いである。

 公務員が関連業者とゴルフや旅行などをすることは、96年に発覚した厚生省次官による汚職事件のあと、厳しく制限されている。自衛隊員倫理規程も、そうした流れの中で定められた。

 防衛省は戦車、戦闘機、護衛艦といった装備で巨額の金が動く組織である。特定の業者との癒着が疑われるような行動はいっそう慎むのが当然だろう。

 さらに深刻なことがある。自衛隊は約25万人からなる実力組織だ。少しのミスで隊員の命を失わせ、外部にも損害を与えかねない。こうした組織を運営するには、厳しい規律とルールの順守こそが求められる。その規律とルールをトップが自ら破ったのだから、罪は深い。

 守屋氏が次官だった4年間は、防衛省・自衛隊にとって歴史的な節目の時期だった。イラク特措法によって、自衛隊がイラクへ派遣された。防衛庁から省へ昇格した。

 一方で、この間に様々な問題も起きている。陸上自衛隊がイラク派遣に反対する市民らの情報をひそかに集めていたことが発覚した。防衛施設庁では幹部を巻き込む官製談合事件があった。

 最近では、インド洋での補給艦の活動をめぐり、保存すべき記録を破棄していたり、給油量の記録が違っていたりするなど深刻なミスが続いている。

 組織がどこかおかしくなっているとしか思えない。

 石破防衛相は「防衛省全体の信頼に大きくかかわるものだ」と述べ、守屋氏から事情を聴く考えを示した。

 業者との癒着の実態はどんなものだったのか。業者に見返りを与えていなかったのか。防衛省は事実を徹底的に調べなければならない。退職金の返還を求めることも考えるべきだろう。

 防衛庁から防衛省に昇格したのに伴い、責任はいっそう重くなっている。そのことを肝に銘じてもらいたい。

赤福―老舗よ、お前もか

 こんどは創業300年の老舗(しにせ)で、お菓子の不正が明らかになった。三重県伊勢市の名物「赤福餅」である。

 まず農林水産省が12日に、製造日の偽装を発表した。いったん包装して製造日まで印刷しておきながら、工場や配送車内に残った製品を再包装し、製造日を印刷し直して出荷していた。これでは二つの製造日があったことになる。

 社長は「品質に問題はない」と弁解しつつも、消費者に誤解させる表示だったと認め、頭を下げた。

 さらに18日深夜になって、じつは店頭で売れ残った製品も再使用していた、と前言をひるがえした。製造日を印刷し直すだけではなく、一部は餅とあんに分け、生産ラインに戻したり、原料として子会社に販売したりしていた。

 赤福餅の包装には「生ものですからお早めにお召し上り下さい」とある。製造後1〜2日での消費を求め、新鮮さを売り物にしている。その裏で「製造日の印刷し直しは2週間以内」との社内規定を設け、そのうえ店頭に並べたものまで再使用するとは、あきれるばかりだ。

 これは表示の不正にとどまらず、食品衛生上の問題である。三重県が無期限の営業禁止処分にしたのは当然だ。

 製造日の印刷し直しは少なくとも34年前から、回収品の再使用は7年前から行われていた。社長は「もったいないと思った現場の判断」と説明したが、ではいったいだれが指示したのか。

 赤福は伊勢神宮前の再開発にも乗り出し、父親の前社長はカリスマ経営者とされていたのに、どうしたことか。

 今年1月、不二家が期限切れの牛乳を使ってシュークリームをつくっていたことが明らかになった直後、赤福は再使用をこっそり中止し隠してきた。

 製造日の再印刷は生産量の2割もあった。回収品も本来、処分するしかないものだ。こんな方法など、神宮の前でだけ客の顔を見ながら製造販売していた時代には思いつかなかっただろう。

 ご当地名物を急成長させたことに無理があったのではないか。大阪、名古屋へ販路を拡大すれば在庫が必要になり、売れ残りも生じる。賞味期限を改ざんしていた北海道土産のチョコレート菓子「白い恋人」と同根の問題を感じる。

 行政の対応もお粗末だった。伊勢保健所は当の赤福から、製造日の印刷し直しについて相談を受けていた。だが、日本農林規格(JAS)法に触れるかどうか精査せず、JAS法を主管する農水省に相談もしなかった。

 また、保健所がなぜ回収品の再使用を見抜けなかったのか。年に1、2回の立ち入り調査でも気づかなかったという。地元の名門企業への過信や遠慮があったのか。三重県も検証が必要だ。

 農水省は菓子業界に、売れ残りや返品の処理方法について点検報告を求めた。看板を裏切る会社はもうないことを祈るしかないというのが、何とも情けない。

PR情報

このページのトップに戻る