社説(2007年10月19日朝刊)
[病床休止]
非常事態の認識持とう
医療現場における産科医、小児科医、看護師などの人手不足が深刻だ。
これまでは現場スタッフの職業的使命感や努力と我慢で切り抜けてきたが、それも限界にきている。
医療専門職の不足は医療そのものにも悪影響を及ぼすようになってきた。
南風原町の県立南部医療センター・こども医療センターは、精神疾患と身体疾患の合併患者を治療する混合病棟(合併症病棟)のうち十四床を看護師不足のため十一月から休止する。
関係者の期待が大きかっただけに残念な処置だ。
同病院は「こども病院」を併設した総合病院として昨年四月、開院した。
混合病棟は十九床。精神疾患と身体疾患の合併症専門病床が五床、一般病床が十四床で、今回、休止の対象になっているのは一般病床十四床である。
合併症専門の精神科病床は、全国でも初めての画期的な施設だ。精神疾患と身体疾患の治療を一つの病院内で施すことができるだけに、治療効果も大きく、患者の家族にとっては、負担軽減にもつながると期待されていた。
一般病床が休止されれば専門病床との相互連携による治療ができなくなる。「休止すれば患者の受け入れも制限せざるを得ない」と病院側は言う。
専門病床は、病院開院一年後の今年四月にオープンしたばかり。まだ半年あまりしかたっていないというのに、早くもつまずいてしまった。
なぜ、このような事態になってしまったのか。
看護師不足は全国的な傾向で、沖縄固有の問題というわけではない。
二〇〇六年四月に診療報酬が改訂され、看護職員の配置基準が変わった。看護師を増やすことで報酬増を図りたい病院側が、積極的に看護師獲得に乗り出し、その結果、看護師不足が全国的に顕在化したといわれる。
県立病院の場合、条例に基づく職員定数の問題もある。出産、育児、病休で現場に穴が空いても、定数の関係で正職員を充てるのが難しい。その分、非常勤を配置することになるが、身分保障が不十分なため長く続かない。
医療現場の定数運用に問題はないか、検証が必要だ。
看護師を確保するための施策は果たして十分か。病院間の獲得競争が激しいだけに、魅力ある条件をどう提示するか、工夫が求められる。
たとえば、免許を持ちながら職に就いていない潜在看護師の復職を進めるとすれば、託児所の整備も必要になるだろう。
何よりも大事なことは、現状が「非常事態」であるという共通認識だ。
社説(2007年10月19日朝刊)
[落下傘降下訓練]
通用しない「例外規定」
嘉手納基地で十九日、救難隊員によるパラシュート降下訓練が実施される。今年一月の訓練に続き二回目、復帰後は四回目である。
当然ながら、地元は「訓練の恒常化が狙いだ」と猛反発だ。沖縄、嘉手納、北谷の三市町で組織する「嘉手納飛行場に関する三市町連絡協議会」(三連協)は訓練は容認できないと強い姿勢を見せ、中止を求める決議文を嘉手納基地司令官に送付した。
嘉手納基地報道部によると、今回の訓練も一月と同様、伊江島補助飛行場で行うべき降下訓練が悪天候で制約されたため、例外的に実施するという。
一九九六年の日米特別行動委員会(SACO)で読谷補助飛行場から伊江島補助飛行場に訓練を移転することが合意されたはずだ。ところが、今年一月の日米合同委員会で「例外的な場合」を理由に嘉手納基地の使用を合意、八年ぶりに実施された経緯がある。
「例外」を振りかざして訓練をするなら、SACO合意とはなんだったのだろうか。形骸化と言ってもいい。
嘉手納基地の機能は確実に強化されている。F15戦闘機訓練が本土移転されたが、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が配備され、最新鋭ステルス戦闘機F22Aラプターの一時配備もあった。F15戦闘機の未明離陸が相次ぎ、クラスター爆弾、ナパーム弾と同様の性能を持つ焼夷弾MK77使用の訓練も明らかになった。
未明離陸についても、騒音防止協定の「例外規定」を盾に実施している。降下訓練も未明離陸も、「日米安保の目的達成」に「例外規定」を持ち出す。これでは合意も協定も有名無実だ。負担軽減どころか、やりたい放題の訓練がまかり通ることになる。
福田康夫首相は衆院本会議で未明離陸について「周辺住民にとって大変深刻な問題だ」と語り、騒音防止協定順守を米軍に働き掛ける考えを示した。
住民の立場に立つならば、福田首相はパラシュート降下訓練の中止を米軍に強く申し入れるべきだ。「例外規定」は通用させてはならない。
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