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2007年10月19日(金曜日)付

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消費増税―真正面から議論せよ

 ようやく問題を真正面から議論しようということなら歓迎したい。

 内閣府が社会保障とその財源についての長期見通しを試算した。現在の保障水準を維持するには、2025年に14兆〜31兆円の財源が必要で、それを消費税でまかなうなら、現在の5%を11〜17%まで引き上げる必要があるという。

 日本は世界が経験したことのない少子高齢化の社会へ入っていく。高齢者が増えれば、かかる費用も大きくなる。

 子や孫の世代へのつけ回しである国債発行に頼らないとすれば、税金や保険料の引き上げを通じてその費用を引き受けるか、福祉サービスの引き下げに応じるか、どちらかしかない。

 それなのに、これまで与党も野党も論議を避けてきた。選挙での損得という胸算用が先に立つからだ。

 しかし、団塊世代が福祉サービスの巨大な受け手になる時代を迎え、小手先の対策では済まなくなってきた。

 福田首相は「問題を先送りすれば、選択肢はさらに厳しいものになる」と述べ、論議を進める考えを示した。

 私たちも、もはや負担増の議論を避けて通れないと考えている。遠からず総選挙が予想されるなかで増税問題に取り組むのなら評価できる。

 ただし、注文がある。同時に歳出削減の手を緩めるなという点だ。

 いずれ増税が避けられないのは分かるが、政府の無駄が残るのは許せない。そう考えている国民も多いはずだ。

 だが、参院選の惨敗を受け、高齢者への配慮や地方活性化に名を借りて予算ばらまきを求める圧力が、与党で高まっている。増税の声を聞くと、それが一層強まることは目に見えている。

 11年度を目標にした財政健全化の計画を先延ばししようとする声もある。だが、この目標は歳出削減を迫る重しだ。先延ばしは許されない。

 一方の民主党は、歳出構造を抜本的に改革することで財源を劇的に作り出す法案をまとめ、来年の国会へ出すという。同時に、基礎年金を保険料のいらない税方式に変更するとしている。

 基礎年金の税方式化を、本当に消費税などの増税なしで実現できるのか、大いに疑問ではある。とはいえ、歳出削減にどんな抜本策があるのか、国民としても知りたいところだ。

 与野党が20年後ぐらいを見通した抜本的な財政・社会保障プランを出し合い競い合うよう期待したい。

 それにしても、前政権までは高めの成長による「上げ潮路線」を掲げてきた。それが福田政権に変わるや、現実的な低めの成長率へ下げようとしている。「上げ潮」の楽観論に疑問を呈してきた私たちは、見直しは当然と考える。

 だが、同じ自民・公明政権なのに、こうも簡単に基本的な考え方を変えていいものか。ご都合主義ではないか。

 転換の理由をまず明らかにすべきだ。

被災者支援法―住宅の再建にも公費を

 住宅の再建こそが生活を立て直す切り札――。自然災害で家を失った人たちの話を聞くと、そんな思いが強まる。

 しかし、いまの被災者生活再建支援法では、支援金を住宅の建て替えに使うことができない。「私有財産である住宅の再建に公費は出せない」という財務省の見解が壁になっているのだ。

 これに対し、民主党に続き、自民、公明の与党も改正案を国会に提出した。与野党の改正案はいずれも、支援金の対象を住宅の再建や購入に広げる内容だ。

 確かに、個人の住宅の再建は、地震保険の加入などでまかなうのが原則だ。だが、被災者がいつまでも住まいを建て直せなくては、地域社会の復興も進まない。そうした公共性を考えれば、支給対象を広げてもいいのではないか。与野党の改正案の考え方を支持したい。

 この法律は阪神大震災をきっかけに、98年に議員立法で制定された。生活必需品の購入に限って、最高100万円を支給するという内容だった。

 04年の改正で、最高200万円を上乗せする居住安定支援制度が盛り込まれた。しかし、その対象は解体撤去費や住宅ローンの利子に限定された。

 さらに年齢や年収の要件が複雑なうえ、被災者の実費請求に基づく積み上げ方式のため、手続きが面倒だ。支援金は支給されても、平均して限度額の28%にとどまっている。

 民主党案と与党案はともに年齢制限をなくし、年収要件も現行の「500万円以下」から「800万円以下」にゆるめている。

 大きな違いは、支援金の最高限度額とその支給方法だ。

 限度額は、与党案では現行の300万円に据え置かれ、民主党案では500万円に引き上げられる。被災者にとって支援金が増えるのは魅力だが、新たな財源が必要になる。ここは据え置きの与党案の方が現実的だろう。

 支給方法では、民主党案はこれまでの積み上げ方式を踏襲している。一方、与党案では、住宅の建設・購入や補修、民間賃貸住宅入居に合わせ、居住安定支援制度に代わって200万〜50万円の定額を支給する。煩雑な事務手続きを省ける与党案の方が使い勝手がいい。

 気がかりなのは、首都直下地震や東海地震などの巨大災害に対応できるのか、ということだ。支援金は、都道府県が出し合った基金と国費で折半しているが、相次ぐ災害で基金は565億円に減っている。首都直下地震の想定では、支援金の総額が7千億円を超え、制度そのものが破綻(は・たん)しかねない。

 こうした巨大災害には最初からお手上げというのでは困る。国庫負担を大幅に引き上げてでも支援金を用意すべきだ。その措置が取れるような条項を改正案に盛り込んだ方がいい。

 自然災害は待ったなしで起きる。与党案を軸に改正を急いでもらいたい。

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