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悲劇 繰り返さない

2007年10月12日

写真

森啓祐くんの遺影にはたくさんの花が供えられていた=筑前町で

 二度と悲劇を繰り返さない――。筑前町立三輪中学校2年生だった森啓祐君(当時13)がいじめを苦に自殺した事件から丸1年が過ぎた11日、三輪中であった全校集会では生徒全員で黙とうをささげ、誓いあった。森君の自宅には正午ごろ、同町の手柴豊次町長ら幹部が訪問。夕方以降は学校帰りの生徒たちも相次いで訪れ、笑顔が絶えなかったころの森君をしのんだ。(岩田正洋、寿柳聡)

 全校集会では、1分間の黙とうの後、権藤博文校長が生徒たちに、「相手を傷つける言葉を使わないよう心がけていますか?」などと問い、「言われた本人は笑ってごまかしているかもしれないが、深刻な苦痛やダメージを受けているかもしれない」と語りかけた。「悩みや不安があったら、学校のどの先生でもいいので遠慮なく相談して」とも呼びかけた。

 一方、森君の遺影に手を合わせた手柴町長は報道陣に「啓祐君にも、二度とこういうことが起きないように、町みんなでしっかりやっていく決意をしていることを申し上げた」と述べた。

 夕方からは、生徒たちの自転車が自宅前に並んだ。事件直後に一度訪れて以来姿を見せていなかった、森君をいじめたとされる生徒の一人も姿を見せた。母の美加さん(37)は帰り際、「また来てね」と声をかけた。

 町教委や三輪中関係者、合谷(ごう・や)智・元校長らは前日までに弔問を済ませた。町教委の井上博行教育課長は「調査委員会の『学校のいじめ対策が漫然となされていた』『教育委員会もこれを防ぐ努力が足りなかった』との指摘は、今にして思うとその通りで、真摯(しん・し)に受け止めている」と話した。

   ◇

 美加さんは、丸1年を迎えたことに、「つらい日だけど、家族で乗り越えていかなければ」と語った。気丈にみえる陰で、痛みは決して癒やされていない。

 1年前のあの日。仕事帰りに「啓祐が学校から帰らない」との連絡をうけた。車で町内外を探し回っている途中、「大丈夫?」と問う同僚の電話に、「私は啓祐を信じている」と、祈るような気持ちで応じた。

 だが、自宅に戻った直後、敷地内の倉庫で首をつっている啓祐君が発見された。葬儀の日。数年ぶりに息子の体を抱きしめ、気づいた。「こんなに成長してたんだ」

 心の隅に追いやっていたそうした光景が、むしろ時が過ぎるにつれて押し寄せてくるという。

 「もし啓祐が目の前に現れたらどうする?」。最近、夫の順二さん(41)と出かけた際、こんな話題になった。順二さんはしばらく黙り込んだ後、「ごめんね、って謝るかな」と一言だけつぶやいた。横顔に、涙が浮かんでいた。美加さんは言う。「私も謝ることしかできない。でもやっぱり、啓祐に会いたい」

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