◆一番怖い病気
◇依然最多、「がん」44%
「いま一番恐ろしい病気」はがん(44%)が群を抜いて最も多かった。2位は脳卒中17%、3位は認知症11%。
がんは、この質問を始めた81年の調査から常に1位で、過去10年間は45%前後と横ばい。脳卒中は00年から漸増し、今回は過去最高。00年以降、特に20~50代での増加が目立つ。年代別に見ると、すべての年代で1位はがん、2位は脳卒中。3位は20代がエイズ、30代が子宮筋腫などの女性特有疾病で、40代以上は認知症。
◇「生きられる」「治る」各39%
では「がんは治る病気か」と三つの選択肢で尋ねたところ、「治る病気だ」と「病気の進行を抑えつつ生きられる病気だ」が39%で並び、「死に至る病気だ」は19%だった。男性は「治る」が43%と「生きられる」を6ポイント上回ったが、女性は「治る」は36%で「生きられる」の42%を下回った。「死に至る」は男女ともほぼ同じで、それぞれ19%、20%。
年代別では20代、60代、70代以上で「治る」が最多。「死に至る」と考える人は、最も多かった70代以上でも26%にとどまり、最も少ない20代では15%。がんが死に直結する病気との観念は、過去のものとなってきたようだ。
◆緩和ケア
◇「知らない」72%
今年6月策定された国のがん対策推進基本計画は、「緩和ケア」の充実を重点課題に挙げている。終末期だけでなく治療の初期段階から、身体的、精神的苦痛を和らげるケアを全国どこでも受けられるようにしようという趣旨だ。
この緩和ケアについては「知っている」27%、「知らない」72%で、あまり浸透していなかった。知っている人は、女性(32%)の方が男性(22%)より10ポイント高い。
◇医療用麻薬、抵抗感強く
緩和ケアが立ち遅れている現状で、がんの痛みの緩和などに使われるモルヒネなど医療用麻薬の消費量は、欧米の数分の1にとどまっている。
自分や家族ががんにかかった時、医療用麻薬を「いくらでも使いたい」と答えたのはわずか14%。「多少の痛みなら我慢し(させ)、限定的に使う」が3割、「末期で治療の手段がなくなったら使ってもよい」が4割に達し、「できるだけ使いたくない」も12%あった。がんにかかった時に「痛み」が特に不安だと答えた人でも「いくらでも使いたい」は17%にとどまった。がんの進行に伴う激痛はこの病気が恐れられる大きな要因だが、医療用麻薬への抵抗感は相当に強いことが分かる。
◆がん対策計画
◇治療法改善、要望多く
政府が6月に決めた「がん対策推進基本計画」で優先してほしい目標を聞いた(複数回答)。最多は「放射線療法や化学療法(抗がん剤治療)の推進」と「緩和ケアの充実」がともに55%で、治療方法の改善などを求める声が強かった。次いで「がん検診率の向上」49%、「相談支援センターの整備」43%。「がん登録の推進」は12%にとどまった。男女別では、「放射線療法や化学療法の推進」は男性(60%)が女性(51%)より高く、逆に「緩和ケアの充実」は女性(59%)が男性(49%)を上回った。
◆がん登録制度
◇「同意した時のみ」62%--個人情報保護重視、障害に
欧米では、がんの発症状況を把握したり治療法の優劣を見極めるため、がん患者の氏名や生年月日、診断内容などをデータベース化して治療研究に用いる「がん登録制度」が法制化されているが、日本での導入に関しては「個人情報保護を優先し、患者が同意した場合のみ登録する」ことが望ましいと考える人が62%に上った。政府は各医療機関でがんのデータを把握する「院内がん登録」の推進を図っているものの、個人情報保護を重視する傾向が障害となりそうだ。
◇「法制化」は18%
「国民の利益になるから、法制化して登録を義務付けるべきだ」は18%にとどまり、「がん登録は必要ない」も15%あった。
年代別でみると「同意した場合のみ登録」は年代が高くなるにつれて減少しており、20代、30代はともに74%だったのが70代以上は44%。逆に「必要ない」は30代の7%が最も低く、最高は70代以上の24%だった。
「自分や家族ががんになった時にがん登録に協力するか」では、「積極的に協力する」33%と「嫌だが、求められれば協力する」49%を合わせて8割超が協力すると回答。「協力しない」は14%にとどまった。性別でみると、「積極的に協力」が男性36%、女性29%と、男性のほうが前向きだった。
◆告知を望むか
◇「知らせてほしい」79%
自らが治る見込みがないがんになった場合に告知を望むかどうかを聞いたところ、79%が「知らせてほしい」と回答した。過去最高だった前回05年調査と比べて2ポイント減り、5年ぶりに減少した。初めて質問した87年は59%で、以後は漸増していた。「知らせてほしくない」は前回比1ポイント増の18%だった。
「知らせてほしい」と答えた人に理由を尋ねたところ、(1)残された時間を真剣に生きたい37%(増減なし)(2)自分や家族の問題を整理したい31%(前回比3ポイント増)(3)病名を正しく知りたい24%(同2ポイント減)--などだった。
年代別で最大の理由が異なり、若い年代ほど「残された時間を真剣に生きたい」が多い。30代以降は「自分や家族の問題を整理したい」が増える。70代以上は「病名を正しく知りたい」が最も多く、34%を占めた。家族の有無や人生経験の多寡で、がんと向き合う際の心情が異なることが読み取れる。
◆治療法
◇「手術」より「放射線」優先
がんになった場合に身体への負担が少ない放射線治療と、がんを切除する外科手術のどちらを希望するかを聞いた。「放射線治療」と回答した人は54%と、「手術を優先したい」39%を大きく上回った。厚生労働省によると、放射線治療を受ける新規がん患者は米国66%、ドイツ60%に比べて日本は25%にとどまっている。しかし調査結果からは、放射線治療を望む人が多い実態が浮かんだ。
「手術を優先したい」と回答した人に放射線治療を希望しない理由を尋ねた(複数回答)ところ、「完治するか不安」が48%で最も多かった。次いで「被ばくの副作用が心配」46%、「治療に時間がかかりそう」41%、「お金がかかりそう」28%と続いた。多くのがんで放射線治療は手術と治癒率は変わらず、国のがん対策推進基本計画でも推進が盛り込まれているが、その効果や利点が国民に十分浸透していない様子がうかがえた。
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◇データ収集へ理解必要
今回の調査では、がんによる心身の苦痛を和らげる緩和ケア、患者の予後などの情報を集めてデータベース化する「がん登録」に関する質問項目が初めて加わった。いずれも欧米に比べて遅れが目立つ分野で、今年6月に策定された国のがん対策推進基本計画でも重要課題に掲げられた。しかし、緩和ケアを「知らない」と答えた人が7割に達し、がん登録も「患者本人が同意した場合のみ登録する」「必要ない」との回答が計8割近くになるなど、国民の間で理解が進んでいない現状が浮かんだ。
モルヒネなどの医療用麻薬を鎮痛剤として適切に使えば、がんによる痛みの8~9割は緩和できるとされる。治療の初期段階からの緩和ケアは患者の生活の質を保ち、痛みの除去が生存率を上げたという報告もある。麻薬中毒になる心配はないにもかかわらず、調査結果からは、医療用麻薬の使用に抵抗感のある人がなお多い現状がうかがえる。基本計画に盛り込まれた医師の研修だけでなく、国民の理解を深める施策も望まれる。
がん登録は、科学的根拠のあるがん対策を進めるための基礎データを作るのが目的。全患者のデータを確実に集め、正確な統計を出すことが求められる。厚生労働省は04年に「がん登録は個人情報保護法の適用外で、患者の同意は不要」との通知を出したが、「積極的に協力する」と答えた人が33%という結果を見る限り、円滑な推進は期待できない。
がん登録の意義を広く周知して関心を高めるとともに、法制化の必要性を含めた議論が必要だ。【科学環境部・須田桃子】
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■質問と回答
全体 男性 女性
◆がんは治る病気だと思いますか。
治る病気だと思う 39 43 36
病気の進行を抑えつつ生きられる病気だと思う 39 37 42
死に至る病気だと思う 19 19 20
◆がんにかかる不安を感じることがありますか。
大いに感じる 20 20 19
多少は感じる 51 51 51
あまり感じない 21 20 22
全く感じない 8 8 8
◆がんにかかったとしたら、そのことを自分に知らせてほしいと思いますか。治る見込みがある時はどうですか。
知らせてほしい 91 92 91
知らせてほしくない 8 7 8
◆治る見込みがない時はどうですか。
知らせてほしい 79 81 78
知らせてほしくない 18 16 19
◇<治る見込みがない時「知らせてほしい」と答えた方に>その主な理由はどれですか。
自分の病名を正しく知りたい 24 26 22
末期医療について自分の意思を述べる機会がほしい 8 9 7
残された時間を真剣に生きたい 37 36 37
自分や家族の問題を整理したい 31 28 33
◆自分や家族ががんになった時、特に不安なことはどれですか。(いくつでも)
看護に従事する家族の負担 67 70 64
家族の生活の保障 44 50 39
治療や看護にかかる費用 63 62 64
がんによる痛み 45 40 50
回復の可能性や余命 51 51 52
仕事・事業の継続 21 25 17
◆放射線治療が切除手術と同じくらい有効ながんにかかった場合、放射線治療を受けたいですか。
放射線治療を受けたい 54 60 49
手術を優先したい 39 35 42
◇<「手術を優先したい」と答えた方に>放射線治療を希望しない理由は何ですか。(いくつでも)
お金がかかりそうだから 28 27 29
治療に時間がかかりそうだから 41 38 42
完治するか不安だから 48 47 49
被ばくの副作用が心配だから 46 42 49
どこで治療を受けられるか分からないから 13 13 12
◆がん対策基本法には緩和ケアの充実がうたわれています。緩和ケアを知っていますか。
知っている 27 22 32
知らない 72 77 67
◆自分や家族ががんにかかった時、痛みを取り除くためにモルヒネなどの医療用麻薬を使うことをどう考えますか。
いくらでも使いたい 14 14 14
多少の痛みなら我慢し(させ)限定的に使いたい 30 34 27
末期でほかに治療手段がなくなったら使ってもよい 41 37 45
できるだけ使いたくない 12 12 13
◆がんの発症状況を把握したり治療法の優劣を見極めるため、欧米ではがん患者の氏名・生年月日や治療内容などの情報をデータベース化する「がん登録制度」が法制化されていますが、がん対策基本法では盛り込まれませんでした。がん登録制度をどう思いますか。
国民全体の利益になるから、法制化して登録を義務付けるべきだ 18 23 14
個人情報保護を優先し、患者本人が同意した場合のみ登録すべきだ 62 59 65
がん登録は必要ない 15 15 16
◆あなたや家族ががんにかかった時、がん登録に協力しますか。
積極的に協力する 33 36 29
嫌だが、求められれば協力する 49 47 52
協力しない 14 14 14
◆がん対策推進基本計画の目標で、どの対策に力を入れてほしいですか。(いくつでも)
放射線療法や化学療法の推進 55 60 51
緩和ケアの充実 55 49 59
がん登録の推進 12 15 10
在宅療養できる患者数の増加 37 34 40
相談支援センターの整備 43 42 44
禁煙支援 14 14 15
がん検診率の向上 49 49 49
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◇調査の方法と表記
全国300地点から20歳以上(9月30日現在)の男女を層別2段無作為抽出法で選び出し、9月7日から9日までの3日間、調査員が訪問し、回答してもらう面接聴取方式で実施した。対象者4581人、回答者2504人、回収率は55%だった。
回答者の内訳は、性別では▽男性47%▽女性53%、年代別では▽20代10%▽30代18%▽40代17%▽50代20%▽60代18%▽70代以上18%。
「質問と回答」の数字は%。小数点第1位を四捨五入し、無回答は除いた。0は回答者はいるが0.5%未満。複数回答は合計が100%を超える。
毎日新聞 2007年10月19日 東京朝刊